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かつては、日本人らしい思いやりのコミュニケーションとして、旅行者を一般の家庭で宿泊させてあげる「民泊」の習慣がありました。

次第に見知らぬ他人同士での警戒が強まり、そうした習慣は少なくなってしまいましたが、近年新たなビジネスとして、民泊が「空き家問題」や「宿泊先不足」といった社会問題を解決する手段になるのではないかと、期待を集めています。

2020年の東京オリンピックを視野に、海外から日本への観光客が増えることは必至。その際に、現状の宿泊施設だけでは対応しきれない可能性があります。

今回は、民泊に関する基礎的な知識から、法規制などの現況までをまとめました。

目次

1.「民泊」とは

  • 言葉の定義
  • 「旅館業」との違い
  • 「民宿」との違い
  • 国内日本人向けと海外観光客向けの各イメージ

2.民泊ビジネスの増加

  • インバウンド客(外国人観光人)による潜在ニーズ
  • 最大手「airbnb」について
  • 各国の民泊ビジネス事情
  • 提供側の「空きスペース」活用
  • サービス増加の裏には無許可営業も

3.民泊によって起きるトラブル

  • 2017年の判決事例
  • 潜在リスク
  • 実際に起こったトラブル
  • 民泊の脅威と旅館業界の反発

4.現行旅館業法との付き合い方

  • 旅館業法とは
  • 業界最大手のAirbnbは違法なのか?
  • 規制緩和の動き

5.まとめ

1.「民泊」とは

言葉の定義

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そもそも、「民泊」という言葉の定義はどんなものでしょうか。

ニュース記事によりますと「民泊」とは、外国人観光客を相手に個人が住宅の空室やマンションの部屋などに有料で泊めるサービスのことのようです。

従来は文字どおり「民家に泊まること」を指していました。旅行者が訪れた土地の人の好意により、無償で宿を提供してもらうケースがあったからです。

ここ数年は、海外から始まったAirbnbなどシェアビジネスの台頭により、その意味合いは変化してきました

法律に明言されておらず、その定義はあいまいなところがあります。

現在では、「民泊」というと、消費者同士がインターネットを介して”個人宅や投資用に所有している部屋“を貸し借りするサービスを指す場合が一般的で、有償となります。かつてのボランティア的な民泊とは異なる、新しいビジネスモデルが出来上がりました。

ですが、「余ったスペースをシェアしよう」というシェアリングエコノミーの動きであることには変わりません。

 

「旅館業」との違い

一般的に、ホテルや旅館といった宿泊施設は「旅館業」に該当します。旅館業は「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されており、国が定めた「旅館業法」に従って業務を行っています。

旅館業の定義にある「営業」というのは、繰り返し行われることを指しているので、例えば1回だけ誰か知りあいに頼まれて自宅に泊めた、という場合は旅館業には該当しません。

また、無償で人を宿泊させるような場合も同様です。

 

「民宿」との違い

民宿とは、本来は民家や使用していない小屋の一室を利用して人を宿泊させる施設を指し、旅館よりも小規模な家族経営が一般的でしたが、現在では旅館業法の簡易宿所営業の許可を取って営業している施設が多いようです。

宿泊料を受けて繰り返し営業を行う点が、民泊とは大きく異なります。

 

国内日本人向けと海外観光客向けの各イメージ

民泊でも、日本人向けのものと外国人旅行者向けのものとでは、捉えられ方が異なります。

日本人向けの民泊の場合は、田舎で農業や漁業、ものづくりなどを体験しながら、地元の人たちと交流を楽しむケースが主流のよう。スローライフを体験し、その土地ならではの食や生活習慣に触れる国内留学のようなものでしょう。

農林漁業体験型民泊サイトとまりーなが JAL、農協観光と協業して、「週末ふるさとTrip」をリリースしました。週末ふるさとTripでは民泊して里山や農村漁村の暮らしをリアルに楽しむ体験を紹介し、とまりーなでの民泊を通してこのプログラムのプロモーションを展開しています

岩手県釜石市は2019年のラグビーワールドカップの開催地の1つになっており、数万人の来訪を見込んで、宿泊地確保のためにAirbnbとの提携を発表しました。この提携でAirbnbは、ロンドンやリオオリンピックでのナレッジを生かし、旅行者確保のためのマーケティングやプロモーション、インターネット対応の面でのホストの育成をサポートします。2017年には釜石市が震災復興関連事業の一環で開催している体験プログラム「Meetup Kamaishi」にAirbnbと協業で民泊を取り入れる予定です。

一方、海外からの観光客向けの民泊は、ホテルよりも格安のコストで宿泊でき、しかも一般家庭の靴を脱いで上がる玄関、畳の和室などに日本らしさを味わうことができるというメリットがあるようです。

Airibnbの発表によるとAirbnbを利用した海外からの来訪観光客数は2016年には300万人に達し、前年の130万人に比べ230%になっています。2016年にはAirbnbが旅先でその地ならではの体験ができるプログラムを探す新しいコンテンツとして「旅行(Trips)」を追加しました。

このことからも、ただ安く泊まれるから民泊を選ぶだけでなく、Airbnbのコンセプトのひとつでもある「暮らすように旅する」を望む海外からの旅行者の間では、その地域ならではの特別な体験・冒険をしたいという需要が高くなっているようです。

民泊を選ぶ旅行者の興味は国内・国外ともに旅先、その地域ならではの特別な体験・冒険を楽しむことに向かっているとも言えます。

2.民泊ビジネスの増加

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インバウンド客(外国人観光人)による潜在ニーズ

最近では、日本への観光客(インバウンド)がどんどん増加している背景があります。2011年の東日本大震災の影響があり、その年は減少してしまいましたが、その後は増加傾向に。

観光庁によると、2015年のインバウンド客は約2千万人であると発表されています。今後特に2020年に開催される東京オリンピックでは、インバウンド客がピークになるのでは、と予想されています。

それに対して、宿泊施設が不足しているという深刻な問題があります。

観光客の増加に対応して大型ホテルなどを建設するには、多額の費用がかかってしまう上、建設期間も長期にわたり、簡単に建築するという訳にはいかないのです。

そういった問題を解決するために、ソリューションとしての民泊の可能性が期待されています。

一般の住宅を民泊としてシェアリングするのであれば、すぐにでも利用が可能で、ホテルより安価で快適な場合があるからです。

 

最大手「airbnb」について

2008年サンフランシスコで創業したAirbnbはホームシェアリングのプラットフォーマーで、日本では民泊マッチングサイトとして知られています。格安の部屋から豪華な別荘や城などの変わりネタまで幅広い物件に泊まれるとして人気を集め、世界中で利用されるようになりました。

Airbnbの登場によって、ゲストはホテルや旅館など既存の宿泊施設より安い部屋を選ぶこともできるようになりました。加えて種類の選択肢が増え、写真を含めた部屋情報が豊富なので選びやすくなりました。

一方のホストもAirbnbに登録すると、インターネット上でホストとしての講座を受講でき、価格設定や鍵の受け渡しなど基本的なことを学べます。オプションではゲストのためのハウスルールやマニュアルの作成を依頼したり、掲載する写真素材をプロのカメラマンに撮影してもらうことができます。

Airbnbのマネタイズはゲストからサイト利用料を、ホストから決済代理手数料を徴収していましたが、2016年下半期は創業から初めて黒字化したとブルームバーグが報じた模様です。AirbnbやUberらシェアリングエコノミーの旗手は未上場ながら企業評価額10億ドル以上のユニコーン企業とも呼ばれますが、なかなか黒字化する目処が立たず、その動向に注目が集まっていました。実際Uberはライバル企業Lyftとの熾烈な囲い込み競争を続けており、数十億ドルの赤字計上になるだろうと言われています。

 

各国の民泊ビジネス事情

SPIKEデータは世界の(アメリカを除く)Airbnb物件数ランキングを発表しました。これによるとTOP10のうち7都市はヨーロッパ、1位はパリ、2位はロンドンで、ともに登録件数5万件を超えています。世界の観光都市ランキングではランクインする1位香港、3位シンガポール、4位バンコクがまったくランクインしていません。もともとヨーロッパでは民泊文化があったこともあり、Airbnbの普及は圧倒的と言えます。

シェアリングエコノミーの普及が進むアムステルダムロンドンでは、2016年12月Airbnbで年間で部屋を貸し出せる日数に上限を設けると発表しました。Airbnbをはじめ民泊の普及が進んでいる欧米の都市では、民泊に貸し出す目的で不動産を購入する人が増えて、価格が高騰し一般の地域住民が借りにくくなるという問題が指摘されていたための措置です。Airbnbは全ての人にとって好ましい持続可能なホームシェアリングを促進し、地域の生活に貢献できる形を模索しています。

同様の問題をアメリカでは「ワン・ホスト、ワン・ホーム」というルールを制定して対処しています。これはAirbnbで貸し出すためにリスティングするのは1人1物件に限定するというもの。ニューヨークやサンフランシスコで導入され、ポートランドでも適用が決まりました。

 

提供側の「空きスペース」活用

一般住宅の空いているスペースを民泊として活用することにより、空き家問題の解決にも繋がるのでは?との声もあります。

民泊であれば、観光地から外れた地域で、旅館業として採算を取るのが難しいようなエリアであっても、コストが小さく済むのでビジネスにつながる可能性があります。

また、SNS等の普及もあり、インバウンド客のニーズとして、日本人からすると意外に感じる場所にまで行きたがる傾向が見られます。

民泊が活発になれば、提供する側・される側のどちらにもメリットがあり、Win-Winな関係が成り立つでしょう。

2016年11月時点で日本の民泊物件数がAirbnbで4万件を超えたと報じられました。Airbnbは2015年同時期の時点で1万2,000件であったことから、1年で3倍以上に増加したと言えます。

世界の都市ランキングの数字からもわかるように、2016年の日本の物件増加数は突出しており、これにはAirbnbも「日本には、世界中から来る旅行者を虜にさせる魅力的な文化や歴史があり、2016年のAirbnb利用のインバウンドゲスト数がすでに300万人を突破したことを嬉しく思っております。 日本は、最も人気が高く、急成長を遂げている国の1つです。」とコメントを残しています。日本は新法制定も控えているため、今後しばらくは民泊物件の増加が続きそうです。

 

サービス増加の裏には無許可営業も

ただし、民泊を行う場合には注意が必要です。宿泊料を受け取り、何度も反復して人を宿泊させると「旅館業」にあたり、旅館業法に基づいて許可を取らなくてはいけないからです。

ユーザーにとっては気軽に利用することができて快適な民泊ですが、無許可で営業を行っている施設は法律違反として取り締まりの対象になります

2014年には、京都の民泊経営者が、法律の基準を満たしていないという理由で、摘発された事例もありました。

 

3.民泊によって起きるトラブル

2017年の摘発例

大阪のマンションの一室を所有していた男性がインターネットで民泊に貸し出していたところ、マンションの管理組合の理事長が損害賠償を求め起訴、大阪地裁は男性に50万円の支払いを命じました。

旅館業法の許可がないため脱法である可能性、ごみや深夜の騒音が近隣住民への利害に反するとの指摘によるもので、新法制定を控えていますが今後の判例になるでしょう。

Lonely man is walking in mysterious fog

潜在リスク

インターネットを介してグローバルに行われる民泊は、様々なリスクが考えられます。

世界中からやって来るインバウンド客を迎えるのですから、日本人の常識にはないトラブルが起こる可能性も否定できません。

Airbnbのような民泊を提供するサービスが仲介していれば、支払いに関するトラブルは少ないと思いますが、例えば物品を壊されたり、部屋を汚されたりということは起こり得ます。

(Airbnbであれば、物件損壊があったときのホスト保証システムがあります。)

一番懸念されるのは、利用客が部屋で何をするのかわからないということです。

マナーが悪くて近隣住民からクレームを受けたり、通報されてしまったりということが起きれば、ホスト側の責任が問われてしまいます。

 

実際に起こったトラブル

1. 泊まる前のトラブル

宿泊前で多いトラブルの1つは鍵の受け渡しです。直接対面で鍵を渡すと、心理的効果でハウスルールを破りにくく、問題が置きにくい傾向があると言われますが、遅刻があった場合近所にでも住んでいないと対応するのは簡単ではありません。海外からくるゲストの場合、フライトの遅延や、Wi-Fiの確保など連絡したくでもできない状況も十分ありえます。

2. 泊まっているときのトラブル

ゲストがハウスルールを守らず、騒音や禁止事項を破るといったトラブルがあります。旅の恥はかき捨てという言葉もあるくらい、旅先ではついはじけてしまう人も多いもの。近隣に迷惑がかかると、民泊運営をすることにご近所の賛同を得られなくなってしまいます。滞在中のゲストの行動を監視する装置を利用するホストも増えるかもしれません。

ごみの分別は国によって異なるので、きちんとわかりやすく表示しておかないと、悪気なく分別一切なしということもありえます。家電や家具についても、国によっては母国にはないもの、使い方が違うものもあるので、マニュアルを用意するか、対面で説明できれば大変親切です。

3.泊まった後のトラブル

望ましくないですが、器物の破損や盗難も起きてしまいます。損害賠償が必要な場合、ゲストとの和解交渉にはAirbnb問題解決センターを利用します。電話連絡先やメッセージによるヘルプセンターもありますが、Airbnb内にはコミュニティがあり、フォーラム形式で問題を解決することもでき、今後ナレッジもどんどん蓄積されていくと考えられます。手続きの受付期間に限りがあるので、ホストは何かあったら早めに申請など対応していく必要があります。

 

民泊の脅威と旅館業界の反発

民泊がビジネスとして活発になると、既存の旅館業者からの反発が起こる心配もあります。

法律に沿って安全面・衛生面や施設設備に関する基準を満たすためには、相当の労力やコストがかかっています。

安易に一般人がAirbnbなどで民泊を行っていることに対し、旅館業界からは自分たちのビジネスを脅かすウーバライゼーションに感じられるでしょう。

また、ホテルや旅館は業界での結束が固く、個人経営の民泊を敬遠している部分もあります。

日経新聞が報じるところによると、中国が大型連休を迎える春節(旧暦正月)の東京・大阪の2017年のホテル料金は、前年比較で1~3割値下がりした模様です。一方でstrの調査データによれば、世界的にはホテルの稼働率はAirbnbの稼働率より高く、Airbnbの普及後も繁盛期のホテル宿泊料金は上昇傾向にあるとしています。

さらにAirbnbの利用は週末が中心なのに対し、ホテルは平日の利用が多くビジネス客需要が安定してあり、同じ市場を共有しているわけではないとも述べています。(こちらのも参照)

 

4.現行旅館業法との付き合い方

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旅館業法とは

旅館業法とは、1948年に施行された旅館業に関する法律で、その中で旅館業を「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義づけています。

そして、宿泊料は、その名目に関わらず、実質的に寝具や部屋の使用料とみなされるものを含みます。

旅館業の種別には①ホテル営業、②旅館営業、③簡易宿所営業、④下宿営業があり、施設の構造など(下宿営業の場合は、「1か月以上の期間を単位として宿泊させる営業」であり、期間が分類の基準)で分類されています。

具体的な法律の内容としては、有償で宿泊させる場合はフロントの設置・寝室面積など必要な施設について一定の基準を満たさなければならない、食事を提供する場合は食品衛生上の許可が必要である、などといったもの。

旅館業を営むには、旅館業法の基準を満たした上で、都道府県知事から営業許可を取ることが定められています。

旅館業法の法律違反で摘発された場合は、6か月以下の懲役刑または3万円以下の罰金刑となります。

 

業界最大手のAirbnbは違法なのか?

ここで気になるのは、民泊ブームの火付け役となったAirbnbは違法なのか否か。

Airbnbでは、民泊の物件をシェアするホストに向けて「それぞれの国の法律遵守」を呼び掛けています。つまり、リスクを回避すると共に、登録ユーザーの自主性に任せているとも受け取れます

Airbnbはそれ自体が民泊を行っている訳ではなく、あくまで部屋をシェアするホストとゲストのマッチングサービスなので、旅館業法違反に問われていないのでしょう。

とはいっても、民泊をはじめとしたシェアの動きは未だ国内では新しい概念であり、行政による明確な整備がされていないため、法的にグレーな部分があるのは事実でしょう。

 

規制緩和の動き

インバウンド客の増加と宿泊施設不足の問題解決のため、政府は国家戦略特区内に限り、民泊を合法化する動きがあります。

国家戦略特区とは、国が特区に指定した地域内では既存の規制を緩和することにより、ビジネス環境の発展を目指したもの。

国家戦略特区で、各都道府県・市・区が認めれば、旅館業の許可を得なくても外国人滞在客向けに民泊ビジネスが行えるようになる「外国人滞在施設経営事業」の緩和が行われることになりました。(ただし、滞在期間が6泊7日以上であることが条件。)

2015年12月に国家戦略特区のひとつである東京都大田区で「大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」、いわゆる「民泊条例」が可決。それを受けて大田区の民泊物件を中心に掲載する仲介サイト「STAY JAPAN」が開設されました。

今後、同様に特区内での民泊ビジネスモデルが完成すれば、合法的に運営されるサービスも増えてくるかもしれません。

2016年12月福岡市では民泊への規制緩和のため、旅館業法施行条例の改正が施行されています。福岡市は民泊推進を掲げているものの依然無許可での民泊営業は横行し、治安維持の目的で住民の反発も少なくないことから、現状の改善をしたい狙いです。

この改正ではフロントの設置を義務としない代わり、対面での鍵の受け渡しや適切に処置する管理事務所の設置と緊急時には迅速に管理者がかけつけること、出入りを記録するビデオカメラの設置などを取り決めました。

 

5.まとめ

民泊ビジネスに関する現状とニーズの高まりを見ると、空き部屋を安価で気軽にシェアリングすることができる民泊には、部屋を提供する側・される側の双方に大きなメリットがあり、Win-Winの関係が成立しているといえます。

今後、東京オリンピックを控えて予想されるインバウンドの増加に伴い、宿泊施設不足の問題が解消できれば、大きな経済効果を生み出すことが期待できるでしょう。これから国の法規制緩和が進んでいくのか、注目したいところです。

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