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段差などの障害物や、障害者と認識される心理的ハードルから、車椅子ユーザーはちょっとした外出もためらってしまうということが多くありました。そんな現状を打破したいと、エンジニアやデザイナーが集まって創業したのが電動車椅子を手がける企業WHILLです。

WHILLの目指す未来のモビリティは、高齢化社会が問題となっている日本や世界の国々にとって大きなインパクトを与える可能性を秘めています。

今回は、そんなWHILLについて詳しく紹介するとともに、MaaS事業や高齢化社会とシェアサービスの関係について解説します。

目次

  1. WHILLとはどんな企業なのか
    ・会社概要やサービスについて
    ・目指す未来について
  2. 50億円の資金調達について
    ・資金調達した企業やその狙いとは

    ・MaaS事業とは
  3. 高齢化とシェアサービスの関係について
  4. まとめ

1.WHILLとはどんな企業なのか

会社概要やサービスについて

https://whill.jp/

WHILL(ウィル)は、「すべての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに、電動車椅子の生産と販売を手がける会社です。

WHILLでは電動車椅子を「パーソナルモビリティ」と定義づけ、単なる福祉器具ではなく、誰もが乗りたくなるような一人乗りの乗り物にしたい、というビジョンを持っています。

創業メンバーは、元日産自動車のデザイナーで、デザイン会社を立ち上げていた杉江氏、ソニーで車載カメラの開発部門にいた内藤氏、オリンパスで医療機器の研究部門にいた福岡氏の3人。ある車椅子ユーザーの「100m先のコンビニに行くのをあきらめる」という一言が、電動車椅子の開発に取り組むきっかけでした。

東京モーターショーへのコンセプトモデルの出展が成功を収めたのを機に2012年にWHILL株式会社を設立、2013年には米国シリコンバレーに拠点を移しました。初めて商品化したWHILL Model Aは発売と同時に完売。2015年にグッドデザイン大賞を受賞し、米国向けモデルWHILL Model Mは医療機器としての認可を取得しました。さらに2018年は欧州への参入にも前向きな姿勢を見せています。

目指す未来について

CEOの杉江氏は今後のビジョンについて「Uber for Sidewalk(歩道のためのウーバー)」と言い表し、WHILLが歩行者を自動で迎えに来てくれて、乗り終わったら元の場所へ戻っていくというような世界を目指しています。

このアイディアを実現するための第一歩として、まずは空港のような広い施設で自動運転や追従走行機能の本格的な実装に取り組んでおり、2016年の羽田空港のロボット公開実験にも参加しました。また、世界中の空港や商業施設からWHILLを設備として導入したいという要望も多く寄せられているとのことです。

高齢化と長寿命化に伴って長い距離を歩くことが困難な人が増えていくことも見据え、将来的にはWHILLが公共交通機関のインフラのように、誰でも当たり前に使えるようになることを目標としています。

 

2.50億円の資金調達について

資金調達した企業やその狙いとは

2018年、WHILLは約50億円の資金調達を実施しました。

資金調達に参画したのはSBIインベストメント株式会社、大和証券グループ、株式会社ウィズ・パートナーズ、Mistletoe株式会社、Endeavor Catalyst、日本材料技研グループ、株式会社エスネットワークスおよび既存投資家です。

今回の資金は、米国とカナダでの販売拡大、2018年に進出した英国やイタリアでの販路拡大と欧州各国への進出、さらにMaaS事業を2本目の柱として本格的に拡大させるための組織体制の強化に使用されます。

特に欧州では、移動で手助けや介助が必要な人が空港などを利用する場合に、スタッフによる介助が法的に義務付けられています。この介助には多くの人手や作業リソースが必要となるため、WHILLの導入によって空港のオペレーションコストを下げるとともに空港利用者の利便性を向上させていきたい考えです。

すでに英国とイタリアで販売しているWHILL Model CドイツのRed Dot Design Awardで最優秀賞を受賞しており、デザイン面や技術面でも高く評価されています。

MaaS事業とは  

この資金提供によって強化していきたいMaaS事業とは、一体どのようなものでしょうか。

MaaSはMobility as a Serviceの略で、ICTを活用して交通をクラウド化し、さまざまな交通手段をシームレスにつなぐ新しい移動の概念のことを指します。今のところ定まった定義というものはありませんが、カーシェアリングやライドシェアサービスもこれに含めて語られることが多くなっています。

始まりとなったのはフィンランドの「MaaS Global」社が提供するサービス「Whim(ウィム)」で、ユーザーは定額の料金プランを選択すると予約、乗車、決済まで一括して利用できるというものです。利用できる移動手段は電車やバスなどの交通機関のほか、民間タクシーやバイクシェア、自転車など多岐に渡り、官民が連携してサービスを提供しています。

このような仕組みは、都市部での交通渋滞や環境問題、駅から離れた土地での利便性の向上、地方での交通弱者対策など、多くの問題の解決に役立てられるとして、日本でも国として高い関心を寄せています

 

3.高齢化とシェアサービスの関係について

http://www.soumu.go.jp/main_content/000527328.pdf

高齢化や労働力不足というと日本独自の問題だと捉えられがちですが、中国や欧州でも生産年齢人口は年々下がってきており、今や世界的な課題となっています。

そのため、IoTやAI、ロボットを利用した自動化や効率化とともに、シェアリングエコノミーも重要なものになっていくことは想像に難くありません。すでに日本でも医療や介護の分野では看護師のマッチングサービスやUber型の医療サービス、介護ヘルパーのマッチングサービスなどが続々とリリースされていて、この流れは今後もさらに加速すると考えられます。

モビリティ分野においては、高齢ドライバーの運転の危険性やドライバー不足などの課題が叫ばれる中で、自動化やシェアリングサービスの普及はそれらを解決する糸口となるのではないでしょうか。

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医療・介護にまつわるシェアリングエコノミー事例~超高齢化社会を救う新しい医療サービス~

 

4,まとめ

厚生労働省の調査によると、身体障害者数は393万人以上に上ります。将来高齢化が進むと、移動が困難となる人はますます増えていく一方でしょう。

施設のバリアフリー化や福祉支援などが推進されていますが、日本ではまだ遅れている部分が多いのも現状です。そんな中、移動のサービス化やシェアリングサービスの普及は、福祉だけでは補いきれない穴をサポートする役割を担っていくかもしれません。

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