民泊解禁など法制度も含め注目が集まるシェアリングエコノミー。そんなシェアリングエコノミー業界において今後必須になるといわれている、本人認証サービス『TRUST DOCK』を手がける株式会社ガイアックスの菊池梓氏に、本人認証の重要性と、今後求められる本人認証の役割について伺いました。
目次
- プロフィール
- 注目が高まる、本人認証
- 内閣官房も、検討会議で本人認証の重要性について言及
- 本人認証システム『TRUST DOCK』の仕組み
- レビューとは異なる、本人認証の重要性
- TRUST DOCKはシェアリングサービス全体を盛り上げる
- 今後の展望
プロフィール
株式会社ガイアックス:菊池梓氏
注目が高まる、本人認証
――なぜシェアリングエコノミーにおいて、本人認証が重要になったのでしょうか?
菊池:シェアサービスはプラットフォームを提供するビジネスです。たとえば、ライドシェアの場合、ホストはライドシェアできる時間と場所の登録を行って、ゲストは相乗り相手を探すとか、ですね。
プラットフォームは在庫を持つわけでもなく、サービスの提供を行うわけでもない、個人同士をオンライン上でつなげてあげるのが役割です。ここで本人確認が必要になるのは、ユーザー同士が契約する前に「この商品は本当にいいものか、提供する人がどんな人か」を知りたい、つまりお互いが信頼できる人かを確認したいというニーズがあるからといえます。
信頼できる人か否かを判断する手段として本人確認があり、その上に商品のレビューや、サービスのクオリティレベルといった付加要素が加わるんです。
また本人確認をしておけば、何か問題やトラブルがあった時に、住所を抑えておき、訴状を送ることができる。そういったニーズを満たすのがプラットフォームを提供する側の役割になるからです。
一般的に金融や携帯電話等の契約においては、ユーザーの本人確認が法律で定められています。これはマネーロンダリングやオレオレ詐欺といった、犯罪に使われないようにする役割があるからです。シェアリングエコノミー業界においては、自主ルールによって本人確認が規定されています。プラットフォーム運営者側からすると、防犯の側面においても追跡可能であることは重要な役割を担うのです。
内閣官房も、検討会議で本人認証の重要性について言及
――本人認証の重要性について、国も力を入れはじめていると伺いました。そのお話も詳しくお聞かせください。
菊池:去年の夏から秋にかけて内閣官房で『シェアリングエコノミー検討会議』が開催されました。会議ではシェアリングエコノミーをより推進していくために、シェアリングエコノミー事業を展開する事業者が参加。安全の確保に向けたガイドラインや自主ルール策定の必要性を話し合いました。
情報セキュリティや利用規約、事後評価などの仕組みについてなど幅広い議論が行われたなか、その会議を経て最終的にまとめたモデルガイドラインの「シェア事業者が遵守すべき具体的事項」という項目にて、第1項目に、本人確認を含む、取引相手の実在性の確認が記載されています。
各事業者が安全性を担保する仕組みとして用意して来たという側面もありますし、シェアリングエコノミーが提供するサービスの特性上、本人確認が重要ですという示唆でもあります。つまり、この政府がまとめたガイドラインからも、本人確認の重要性がうたわれているんです。
本人認証システム『TRUST DOCK』の仕組み
――なるほど、業界全体としてのニーズや、国がまとめ上げている指針による気運の高まりもあるなか、本人確認を代行するサービスとしてTRUST DOCKがあると。
菊池:はい。TRUST DOCKはとてもシンプルな仕組みで構築しています。まず、ユーザーに本人確認のための本人確認書類を送っていただく。たとえば、運転免許書の表と裏の写真をそれぞれ撮ってアップロードしていただくといったもの。その本人確認書類の内容と、シェアリングサービスの登録画面で入力いただく、自分の名前や、住所、生年月日といった情報の内容が一致しているかという確認を行います。
そこに加えアップロードされた身分証は、目視で確認できる限り、不正がないか確認をします。たとえば、ぼやけていたり、一部が隠れていたりする場合。精巧なものになってくると、運転免許証にある公安委員会のハンコがないものなど。身分証に何かしらの不正がないかを確認し、登録情報との整合性を確認して認証処理をしています。
現状は全て目視で確認していますが、システム的にはスキャン機能を整備しているので、テキスト情報として拾えるものは自動化できるようになっています。現状確認に要する時間は1時間頂いていますが、実際はだいたい15分前後でお戻しできているかたちです。
レビューとは異なる、本人認証の重要性
――具体的にはどのような企業様が導入されていらっしゃるのでしょうか。
菊池:ペットシッターの方々にご導入いただいたり、CtoCのカーシェア事業者様にご導入していただいたりしています。弊社が提供している企業様のなかには、市場がまだ大きくはないものの、まずはサイトとして安全であること、健全なコミュニティであることを証明するために本人確認の導入をいただいた例もあります。
いわゆる評価システム、レビューなどはその土台があった上で生きてくるものなので、二段構えで信頼性を担保する座組になっています。本人確認の話をすると、「レビュー機能とFacebook認証があれば成立するのではないか」とよくいわれるんですが、サイトの健全性を確保するためには本人認証は欠かせません。レビューはあくまでその上にあるという位置づけ。
カーシェアサービスの事例でいいますと、車に対するレビューやホストの方の優しさに対するレビューはあくまで上乗せの要素に過ぎないんです。そこをちゃんと切り分けて考えて頂いている企業様に、導入いただけた事例もあります。
今後特に必要となると感じているのは、シェアリングサービスを展開しようと考えている大手企業様です。特に上場企業の場合ですと、シェアリングサービスを使うユーザーが反社会勢力の人だと困るんですね。反社会勢力に事業を通して力を貸すことになってしまう。
そういったコンプライアンス上の問題もあるので、ちゃんと本人確認の書類をチェックしたり、必要であれば反社会勢力か否かのチェックをするといった役割も今後求められてくるでしょう。
TRUST DOCKはシェアリングサービス全体を盛り上げる
――シェアリングサービスにおける本人確認機能を扱うプロから見て、こういった企業にもっと使ってほしいという想定はあるのでしょうか。
菊池:ガイドラインが語っている内容と近いのですが、対面でシェアリングを含むプラットフォームビジネスを提供する事業者はすべからく本人確認機能を設けることが今後求められてくるのではと考えています。
提供する製品の特性でもあるのですが、オンライン上で取引が完結するものってありますよね。その場合リスクが高いものはあまり多くありません。お金を払ってくれて、仕事をやってくれたら、取引は成立する。
ただ、リアルで対面するサービスの場合はそうはいかない。家事代行などは、やはりユーザーの安心安全という観点から考えても、本人確認をしていた方がよいと考えています。たとえば最近導入いただいたものですと、モデルの方とカメラマンをマッチングするサービスです。モデルの方が何かに巻き込まれる危険性や、不安を払拭するために本人確認が必要というわけです。
TRUST DOCKは去年の11月からはじまったのですが、それまでの本人認証はプラットフォーマーそれぞれがチェック機能を作っていました。確認のためのアップロードの仕組みを作ったり、上がってきた内容をチェックする画面を作ったりして、人を雇って、チェックしてもらう。最初は全然構わないと思うんですが、ユーザー数が増えてくるとオペレーションコストもかかりますし、コンプライアンスを整える必要も出てくるのでそれなりのリソースを必要とします。ある程度社会においてシェアリングサービスなどの認知が広まってきたいまだからこそ、必要性を改めて感じていただけると思っています。
本人認証という業務はシェアリングエコノミー共通でやらなければならないこと。TRUST DOCKはオペレーションを提供するビジネスというのもありますが、そのコスト削減をすることでシェアリングエコノミー業界全体を盛り上げていきたいという意図もあります。
今後の展望
――最後に、シェアリングエコノミーに関する法律や周辺環境も変化が起こっているなかで、TRUST DOCKとしての今後の展望をお伺いできますでしょうか?
菊池:本人認証のプロフェッショナルとして、選んでいただけるようなポジションを目指していきたいと思っています。これからさまざまな企業がシェアリングエコノミーに参入する流れがあるなかで、企業ブランドを背負ってシェアリングエコノミーを始めるには、オペレーションやコンプライアンスがしっかりとしていることは必須事項でしょう。そこにTRUST DOCKが食い込んでいける。そのポジションを狙っています。
そのために重要視しているのが法人対応とマイナンバーです。シェアリングエコノミーのプラットフォームに登録したいという法人の確認方法は、個人とは異なります。登記を確認して、役員の本人確認をして…といった個人とは異なる業務がいろいろと含まれる。
業界全体としても法人がシェアリングエコノミーサービスに登録するときの確認手段が構築されていないところも多いので、そういった特殊な対応もできることで更に価値を発揮していきたいと考えています。後はマイナンバー。シェアリングエコノミーもそうですが、個人の働き方や稼ぎ方が多様化していることで確定申告の重要性も増しています。ですから、税や社会保障といったバックボーンを支える仕組みにはしっかりと対応していきたいと考えています。
海外では本人確認をオンラインで行うのは当たり前になっています。マイナンバーのような個人番号を使えば、本人認証ができる。たとえばエストニアやインドでは、政府発行のデジタルIDがあるので、FinTechのようなサービスがすごく発展しているといわれているんです。
本人認証がデジタルで完結して、アカウントがリアルの自分と紐付くことは社会構造上もとても重要なんじゃないかなと思っていて、それが日本でもあるとオンライン上のサービスもきっと充実していく。TRUST DOCKはその一助になれると思っています。