シェアリングエコノミーラボ (Sharing Economy Lab)

爆発的に成長する中国のシェアリングエコノミー市場!その背景と日本との違い

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場所、乗り物、スキルなどの遊休資産を活用することで、利益を生むことができるシェアリングエコノミー。矢野経済研究所の調査によると、2016年度日本におけるシェアリングエコノミー取引額は、昨年比26.3%増の 360 億円(見込み)となっています。

それに対し、中国における取引総額は約56兆9000億円!昨年に比べ103%増と驚異の数字を叩き出しています。中国の成功を例に日本のシェアリングエコノミーの可能性に迫っていきます。

目次

  1. 中国のシェアリングエコノミー市場規模と成長率
  2. 中国の代表的なシェアリングエコノミーサービス
  3. 日本と中国、シェアリングエコノミーを取り巻く環境の違い
  4. まとめ

中国のシェアリングエコノミー市場規模と成長率

中国の国家信息中心、インターネット協会の報告書によると、2016年の中国におけるシェアリングエコノミー市場の取引額は、前年比103%増の3兆4520億元(約56兆9000億円)に達し、今後数年間、40%以上の成長率が期待されると言われています。

その内訳をみると、生活サービス(約11兆9000億円)が1位となり、次いで、生産能力(約5兆6000億円)、交通(約3兆4000億円)と続いています。中でも、昨年よりも目立って急成長したのが、知識・技能部門で、こちらは前年比205%増。また、民泊などの住宅・宿泊で131%増とこちらも今後拡大が予想される部門となっています。

これほどまでに短期間で中国のシェアリングエコノミー市場が急成長した理由を、まずは中国のシェアリングエコノミー市場を担う5社に焦点を当て、探っていきたいと思います。

 

中国の代表的なシェアリングエコノミーサービス

中国のシェアリングエコノミーサービスは、アメリカの人気サービスを真似たものが多いのですが、ただのコピーに留まらず、中国の市場にマッチするよう改編されているのが特徴です。その代表的な会社の特徴を個別に紹介していきます。

 

①住百家(場所のシェア)http://www.zhubaijia.com/

シェアリングエコノミー企業として中国初の上場企業となった「住百家」。「Airbnb」の中国版ですが、Airbnbとの大きな違いは、貸す方も借りる方も基本的に中国人に限定しているという点。さらに、オンラインとオフラインでの厳しい審査を設けることで一定の水準を保証しています。Airbnbにはない住百家にはない限定物件も多く、 2015年の売上高は昨年比68倍増の4569.4万元(約7.8億円)に上りました。

 

➁途家(場所のシェア)https://www.tujia.com/

別荘や一戸建てなどのリゾート物件をメインで扱う「途家網」。住百家と同じ宿泊場所のシェアですが、個人ではなく不動産会社と提携し、質のよいワンランク上の“民泊”を狙っています。

 

③滴滴出行(ライドシェア) http://www.xiaojukeji.com/index/index

アメリカの大手配車サービスサイト「Uber」の中国版。2015年の年間配車件数は14億3000万に達しました。その急成長の理由には、大手企業からの資金調達と競合相手との吸収合併にあります。2015年にライバルであった「快的打車」と合併、2016年5月にUber中国を買収。さらに同月にAppleから10億ドルの投資を受け、事実上、中国のライドシェアサービス87%を誇るトップ企業となりました。

 

④モバイク(サイクルシェア) http://www.mobike.com/global/

渋滞の多い中国において、自転車も市民の足となっていますが、この自転車をシェアできるサービス「モバイル」が話題となっています。専用アプリで申し込み、支払いも一括ででき、近くにある自転車もGPSで探せます。公共のレンタルサイクルより便利と若者に人気を呼び、投資家から1億ドル以上を資金調達するほど、期待が集まっています。

 

⑤ofo(サイクルシェア)https://www.ofo.so/

黄色い自転車が目を引くサイクルシェアサービスが「ofo」です。モバイクの競合に当たります。近くにある自転車の検索や自転車のロック解除、決済まで専用アプリを使って行える手軽さが人気。街の中はもちろん大学のキャンパス内でも利用されるなど、サイクルシェア市場をリードする存在となっています。

 

⑥河狸家(スキルシェア) https://www.helijia.com/

今女性に人気急上昇中の美容系のシェアリングエコノミーサービス「河狸家」。ネイリストのスキルレベル、お気に入り登録している顧客数、値段、自慢のアートの画像が表示され、手軽にお好みのネイリストに予約できます。創立1年にしてすでに1日の取引数は6000回を突破。今勢いのある美容アプリです。

 

自転車シェアリングをめぐる熾烈なシェア争い

特に2016年ごろから盛り上がりを見せているのが、自転車シェアリング業界です。

大手サイクルシェアのモバイクは騰訊控股(テンセント)などから6億ドルを調達し、小規模スタートアップUnibikeを買収するなど、順調にユーザー数を伸ばしています。

これに対し65%もの市場シェアを有するのがofoです。2016年第4四半期から2017年第1四半期にかけての週間アクティブユーザー数は386%という増加を見せています。

ofoもまたアリババなどから総額7億ドル超もの出資を受けることが明らかになり、シェア争いはさらに過熱しそうです。

サイクルシェアは便利さの一方でユーザーのマナーが問題になります。特にマナーが悪いイメージがある中国では、マナー問題は深刻になるとも言われていました。

そこで政府指導の下、シェアサイクル各社は協定を結び、マナーの悪い顧客に関する情報を共有するようにしました。マナー違反を行ったユーザーはほかの企業のサービスも利用できなくなったりすることで、マナーの向上を狙っています。さらに将来的にはこの顧客情報は、信用情報などのデータベースとの統一を目指しています。

また、モバイクとofoともに中国国内のみならず、シンガポールやイギリスでの海外進出も始まっています。モバイクはすでに日本法人を設立しており、日本でのサービス展開も始まる予定です。

 

日本と中国、シェアリングエコノミーを取り巻く環境の違い

①日本の法整備の遅れ

これほどまでに中国のシェアリングサービスが急成長した理由の一つに、法体制を整え、国家規模で支援していることも挙げられます。

例えば、ライドシェアは日本では道路運送法に抵触するとあり、問題となりました。ライドシェアの運転手はタクシードライバーがもつ第二種免許を持たず、人員運送が許可されていない白いナンバーの自家用車で送迎することが「白タク行為」になると指摘されています。

これに対し、中国ではライドシェア導入後、「インターネット予約タクシー経営サービス管理暫定弁法」が2016年に施行され、一定の要件のもとでライドシェアが公認されるようになりました。

日本では、他国と比べライドシェアの法整備が遅れており、2020年のオリンピックに向けて、関西・関東圏の限られた場所でライドシェアの法整備の取り組みが始まっています。

➁国民の意識の違い

また、日本のシェアリングエコノミーをさらに発展させる上で、中国人と日本人のシェアリングサービスに対する意識の格差にも注目しなければなりません。

ニールセン シェアコミュニティに関するグローバル調査 2013年によると、他人が提供する製品・サービスの利用に意欲的な国の1位に中国が挙げられており、全体の94%が他人の物を共有するのに抵抗はないという結果が出ました。

これに対し日本は、PGF生命主催の「シェアリングエコノミーと所有に関する意識調査 2016において、「レンタル 品や中古品の利用に抵抗はない」と思う人は全体の67.1%となっています。

別々の調査なので単純比較はできませんが、中国に比べるとシェアに対する意識が低く、抵抗感が高いといえるでしょう。

日本のシェアリングエコノミーを発展させる上で、国民のシェアサービスに対する意識改革、そして早急の法制度の整備が課題となっています。

③インターネット環境の違い

中国インターネット情報センターによれば、2016年の中国におけるスマートフォンユーザーは6.95億人と、国民の95%にも上ります。日本の総務省の統計では、ネット利用者のうちスマートフォンの利用が54.3%であることを考えると、驚異的な普及率です。

もともと中国政府は「インターネット+」という国策を掲げてインターネットの活用を促進してきたのに加え、日本円にして1〜2万円の安価な中国産の製品が普及しているため、子供から老人までがスマートフォンを所持しています。

生活の中で手軽に使えるスマートフォンとシェアリングエコノミーの相性は抜群に良く、さまざまなシェアサービスが普及するのに時間はかかりませんでした。さらに流通の整備の遅れからくる実店舗の不便さが追い風となり、消費者は一気にモバイルの使用を加速させました。

このように一足跳びで最先端の環境に進歩する現象は「リープフロッグ現象」といわれ、中国のシェアリングエコノミーが浸透した背景を語る上で欠かせない現象ともいえるでしょう。

 

まとめ

中国のシェアリングエコノミーの急成長には、自国の文化に合わせてシェアリングサービスを改良した企業の工夫、そして法整備を含めた国のサポート体制、シェアリングサービスを受け入れやすい土壌に関係することがわかりました。

今後、我が国でも発展が期待されるシェアリングエコノミーを促進するために、まずは法的環境整備、そしてシェアリングサービスを求める国民の意識改革も重要課題となっていきそうです。