シェアリングエコノミーラボ (Sharing Economy Lab)

世界初のMaaSプラットフォームアプリ「Whim」とは。サービス内容と今後の展開について

Central railway station in Helsinki, Finland

フィンランド発のアプリWhim(ウィム)が、MaaSを実現するプラットフォームとして世界から注目を集めています。

サイクルシェアやカーシェアリングなど移動に関するシェアリングエコノミーは世界的にも普及が進んでいますが、Whimはそれらを一元化するサービスとして始まりました。日本でも政府や民間企業でMaaSに関する取り組みが始まっており、近い将来WhimをはじめとしたMaaS分野のビジネスが展開されるとみられています。

この記事ではWhimのサービス内容や利用することのメリットなどを紹介しつつ、日本におけるMaaSの実現について考察します。

目次

  1. MaaSを実現するアプリ「Whim」とは
    ・サービス概要について
    ・利用のメリットについて
    ・シェアサービスを一元化とは
  2. 今後の展開について
  3. まとめ

1.MaaSを実現するアプリ「Whim」とは

サービス概要について

https://whimapp.com/

Whim(ウィム)はフィンランドの首都ヘルシンキでスタートしたモビリティのプラットフォームサービスアプリです。フィンランドのベンチャー企業MaaSグローバル社が提供しています。

従来、自動車や自転車、バス、電車などの移動手段を利用する場合は、各サービスの事業者へ予約や料金の支払いといった手続きが必要でした。それらの移動手段をひとつの大きなサービスととらえ、検索から支払いまでをシームレスに利用できるようにするという考え方は「MaaSMobility as a Service)」と呼ばれ、フィンランドを起点に欧州で広がりを見せています。MaaSは自動運転やAI、オープンデータなどの活用やシェアリングサービスも組み合わせることで、交通インフラをイノベーション化することが期待されています。

そしてWhimは、このMaaSを初めて都市交通に導入した事例です。2016年にヘルシンキの交通当局と実証実験を行ったのち、正式にサービスが開始されました。もともとヘルシンキでは渋滞や環境悪化などの交通問題の解決に取り組む動きがあったことも後押しとなり、政府や民間企業が参画する一大プロジェクトを通してMaaSが現実のものとなった形です。

Whimを使えば、さまざまな交通手段をひとつのプラットフォームから利用することができ、効率的な移動や利便性をもたらすことが期待されています。

国内でも、電動車椅子を手がけるWHILLMaaS事業を強化すると発表して話題となりました。WHILLの構想するMaaS事業については関連記事を参考にしてください。

関連記事:

電動車椅子のWHILL50億円を資金調達。シェア事業に本格参入して未来のインフラを目指す

利用のメリットについて

https://whimapp.com/

ヘルシンキでは渋滞や環境悪化などの交通問題が顕在化していたのは前述のとおりです。街では地下鉄やバス、トラムと呼ばれる路面電車など、交通機関の整備はされているものの、乗り継ぎの面倒さや最寄り駅までのアクセスの悪さなどが要因となって自家用車が多く利用されていたのです。
こうした課題を解決するために、Whimではアプリを見せるだけで目的地までの移動手段を利用することができ、乗り継ぎや清算をスムーズに行うことを可能にしました。

これにより、Whimサービス開始前の交通利用状況はでは公共交通が48%、自家用車が40%、自転車が9%だったのに対し、2016年のサービス開始後は公共交通が74%と大きく伸び、自家用車は20%に減少したとのことです。

フィンランドでは環境問題への意識も高く、CO2を削減する取り組みにも熱心です。Whimによって公共交通の利用を促進し、排ガスを抑えられるのは大きなメリットといえるでしょう。また、自家用車や駐車場を所有しなくてよくなるのでユーザーの生活コストも抑えられます。自転車を利用することで健康の増進にも役立つかもしれません。

シェアサービスを一元化とは

https://maas.global/maas-as-a-concept/

Whimのアプリでは地下鉄、バス、トラムのほかタクシー、カーシェアリング、レンタルサイクルなどを使うことができます。公共交通機関と民間事業が一体となってサービスを提供することで、都市全体でのMaaSを実現しました。

利用するにはアプリで出発地から目的地までを検索し、提案された移動手段から好きなものを選ぶだけです。たとえば駅までは自転車で移動して駅からは地下鉄に乗る、というような組み合わせも可能で、普段は自転車を利用するが天気の悪い日にはタクシーに乗る、といったような柔軟な使い方をすることもできます。

料金は月ごとにポイントを購入するしくみで、観光目的で利用されることを想定し旅行者向けの短期利用プランも用意されています。

 

2.今後の展開について

フィンランドでは、2018年7月に「輸送サービスに関する法律」(Act on Transport Services)を施行し、輸送サービスに関する法律の一元化を図りました。その内容はデータや情報システムの相互運用確保の義務付けのほか、経路や時刻表、予約システム、支払いなど交通関連の各種規定を一本化するというものです。さらに輸送サービスの規制緩和を進めて民間タクシーの参入やUberの解禁など、ユーザーにとっては選択肢が増える展開となります。

Whimは2017年以後、ベルギーのアントワープ、イギリスのバーミンガム、オランダのアムステルダムでサービスを提供しています。さらにシンガポールでもテスト運用が始まり、現地のパートナー企業と組んで2019年にはサービスインする予定です。

今後世界中でサービスが加速するとみられるWhimには日本企業も注目しています。2017年にはあいおいニッセイ同和損害保険とトヨタファイナンシャルサービス株式会社がWhimへの出資を発表、その後デンソーも出資を決めました。各社ともMaaSへ高い関心を寄せており、モビリティ事業を強化していきたい考えです。

MaaS Global社のCEOヒエタネン氏は、すでに横浜エリアでパートナーとの交渉を続けているといい、2019年には日本へ展開する可能性があるとのことです。

 

3.まとめ

人口密集や自家用車の普及による交通渋滞や環境破壊は日本の都市部でも例外ではなく、シェアリングエコノミーの活用やMaaSのような移動の革新化へ取り組むことは急務と言ってもいいでしょう。

民間企業では、先に取り上げたWHILL社をはじめとしたモビリティ関連の企業が移動サービスの事業を推進し始めています。また、公共交通データを保有する国土交通省では交通分野のオープンデータ化の検討を行うなど、政府としてもMaaSの実現へ着実に踏み出しています。

Whimが日本で展開するとなれば大きなインパクトになることは間違いなく、既存の交通インフラや社会課題へどのような影響を与えていくのかが注目されます。