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2020年東京五輪で民泊はどう変わる? 現状と課題、法整備について解説

Arena sport running race track

2020年開催の東京オリンピック・パラリンピック。56年という時を経て、再び首都・東京で行われる一大イベントに日本中から大きな期待が寄せられています。

一方で、増加する訪日外国人旅行者の宿泊施設不足が懸念されていましたが、みずほ総合研究所(以下、みずほ総研)は予想を一転して「宿泊施設不足はそれほどひっ迫しない」という新たな試算を発表しました。その背景には、ホテル新設計画の急増だけでなく、近年需要が拡大する民泊の存在があるようです。

この記事では、東京オリンピックに向けてニーズが高まる民泊の現状や課題、それに伴う法整備の新たな動きについてお伝えします。

※編集部注

2019年1月31日に加筆修正しました。

目次

  1. 東京五輪に向けて進む準備
    ・客室数は不足するのか
    ・1964年の東京オリンピック
  2. 民泊新法における現状と課題
  3. 旅館業法の規制緩和について
  4. 大手やベンチャー企業もさまざまな形で民泊に参入
    ・鍵受け渡しなどチェックインシステムで参画
    ・賃貸物件や時間貸しスペースを宿泊施設として活用
    ・進むAirbnbとのパートナー制度
  5. まとめ

1.東京五輪に向けて進む準備

客室数は不足するのか

2018年の訪日外国人旅行者数は3,000万人を超え、ますますインバウンド需要が高まる日本。こうした需要の拡大を受け、政府は2020年までの訪日外国人旅行者数を4,000万人、2030年までに6,000万人という目標を掲げています

2018年10月に発表されたみずほ総研のレポートでは、現在のペースが続けば2020年までに4,000万人という政府目標は優に超える見通しであると予想しています。

出典:みずほ総合研究所2018年10月29日資料

さらに、2016年まで懸念されてきた訪日外国人旅行者の宿泊施設不足に関し、2017年の試算では「宿泊需給は従来予想ほどひっ迫しない可能性が高まっている」と大きく転換、2018年の試算でも、その結論は変わりませんでした。

同レポートの「図表16 2020年の不足客室数予測値(P18)」によると、2020年の不足客室数は全国で1,900室程度と前年の予測3,800室より半減しています。

ただし、2018年から「宿泊施設のタイプ別需給バランスを考慮する」など試算方法が変更されたことにより、前年度不足が予測された大阪に加えて東京や沖縄においても客室が不足するという結果になりました。なお「日本人は三大都市圏、外国人は地方圏に宿泊需要が変化する」と仮定した場合の不足客室数は全国で2,600室程度となり、東京での不足客室数は発生せず、大阪・九州・沖縄での不足が予測されています。

一方、同レポートの「補論C ホテル客室数が下振れする場合の試算結果(P42)」によると、ホテル客室数が計画を下回る場合については、客室不足数は最大40,000室超と予想されており、2017年当時の試算(最大23,000室)を大幅に上回る結果となりました。この結果にも試算方法の変更が影響していると考えられますが、もしホテル建設が計画よりも遅滞したり、既存ホテルの閉業が多くなったりした場合、関東と近畿、九州、沖縄での客室数不足、特に東京においては14,000室超の不足が懸念されます。

しかしながら、2016年までの予測に比べて都市圏を中心にホテルの新規建設・改装計画が急増したこと、またクルーズ船の利用や民泊の普及によりホテルを利用しない旅行者が急増していることなどによって、2020年の不足客室数は大きく緩和されたといえるでしょう。

同レポートでは、新たな試算方法でより精度の高い予測結果が得られたといえますが、民泊については統計上把握することが困難であるため、今後は民泊に関するデータ分析を深めていくことが課題だと指摘しています。

2020年の不足客室数を補うためにも、特に東京・大阪・沖縄における民泊の普及をすすめることが課題となりそうです。

1964年の東京オリンピック

近年、シェアリングエコノミーの旗手である「Airbnb(エアビーアンドビー)」の台頭によって民泊という言葉が浸透してきましたが、その起源は1964年の東京オリンピックにさかのぼります。

当時、宿泊施設不足を懸念した東京都の訴えによって約600世帯が外国人旅行者を受け入れました。現在よりも海外の文化に触れる機会が少なかった時代において、この交流はホストにとっても旅行者にとっても貴重な経験だったに違いありません。

現在でも民泊を通じた異文化交流が行われている一方、利用者の増加によって騒音やゴミ被害などのトラブルが増えていることも事実です。個人のモラルや国による文化・マナーの違いだけでなく、民泊サービスをめぐる法整備の曖昧さや不透明さも問題視されており、早急な対策が求められています。

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2.民泊新法における現状と課題

こうした問題に対応すべく、政府は民泊サービスに関する法整備に取り組んできました。そして2017年、遂に「住宅宿泊事業法(民泊新法)」が成立し、2018年6月15日より施行されました。

民泊新法は、ホテルや旅館など従来の宿泊営業形態について定めた「旅館業法」とは異なり、住宅での民泊サービスについて規定した新しい法律です。

「民泊」の定義としては「年間提供日数が180日(泊)を超えないこと」など、いくつかの条件が挙げられています。民泊新法の詳しい内容については下記の関連記事でも解説しているので、ぜひ併せてご覧ください。

民泊新法では年間提供日数の上限などについて各自治体が独自に規定することを認めており、全国の自治体ごとにルールが策定されています。

しかし、一部の自治体における厳しい条例や届出手続きの煩雑さが疑問視されていることも課題となっています。そこで、民泊の普及を促進したい観光庁・厚生労働省・国土交通省の関係部局は、2018年11月、不適切な事例や関連自治体に対し通知するとともに実態調査結果等を公表、早急な改善を求める考えを示しました。

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3.旅館業法の規制緩和について

民泊サービスの普及に伴い、先ほど触れた「旅館業法」にも新たな動きが出てきました。

旅館業法は、ホテル・旅館・簡易宿所など従来の宿泊営業形態について定めた法律です。民泊新法と違って営業日数の制限などがない一方、営業形態によってさまざまな要件が定められています。

この旅館業法についても、民泊の普及をはじめとした宿泊業界の変化に対応すべく、改正が進みつつあります。

2017年12月15日に公布された「旅館業法の一部を改正する法律」では、従来分かれていた「ホテル営業」と「旅館営業」という2つの営業種別を「ホテル・旅館営業」に統合しました。また、違法な民泊サービスの広がりを踏まえ、無許可営業者に対する取り締まりを強化する内容も盛り込んでいます。

この法改正に伴って2018年1月31日に新たな政令が公布され、従来はホテルと旅館で別々に規定していた最低客室数や最低床面積、暖房設備の有無といった要件を廃止・緩和しました。

この政令は民泊新法と同じく2018年6月15日の施行を予定しており、民泊新法の成立と旅館業法の規制緩和という2つの動きによって、宿泊業界は新たな局面を迎えようとしています。

今後の動きとしては、法改正によって「ホテル・旅館営業」と「簡易宿所営業」を区別する必要性が曖昧になりつつあることから、厚生労働省はさらにこの2つの営業種別を統合する案を検討しているようです。

また、政令では指紋認証などのICT(情報技術)設備で本人確認などが可能な場合はフロントの代替設備として認めており、ICTの導入にも注目が集まっています。

2018年1月には一般社団法人ジャパンショッピングツーリズム協会と日本電気株式会社(NEC)らによってICTを活用した訪日外国人へのおもてなしサービスの実証実験も行われており、今後はこうした技術革新によって宿泊サービスの効率化・多様化が進んでいくのではないでしょうか。

 

4.大手やベンチャー企業もさまざまな形で民泊参入

大手企業やベンチャー企業など、多くの企業が、さまざまな形で民泊に参入しています。

鍵受け渡しなどチェックインシステムで参画

民泊には不可欠となるチェックインをサポートするのは「KEY STATION」「KeyCafe」など、遠隔操作による無人鍵管理システムを提供する事業です。「ファミリーマート」や「ローソン」などの大手コンビニエンスストアなどを窓口に、民泊事業者にとって不安の大きい要素である鍵の受け渡しをアプリと端末で簡略化、利用者にとってのサービス向上にもつながります。また、システム利用者によるコンビニエンスストアでの購買促進にも貢献すると期待されています。

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賃貸物件や時間貸しスペースを宿泊施設として活用

リクルート住まいカンパニー」は、「Airbnb」と業務提携し、不動産情報サイトSUUMOに掲載されている賃貸物件を住宅宿泊物件としても活用することにより、収益向上を支援しています。

また、空きスペースを時間貸しするスペースシェアの「スペースマーケット」は宿泊できるスペースを提供する「スペースマーケットSTAY」も展開。年間で営業できる日数が180日以内と定められ、採算がとりにくいという民泊新法の課題を時間貸しと併用する考えです。

このような2通りの活用法の提案は、まさにシェアリングエコノミーの理にかなっているといえるでしょう。

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進むAirbnbとのパートナー制度

2020年の東京オリンピックに向け民泊需要が高まるなか、民泊運営の世界最大手「Airbnb」は、日本における新たなビジネス戦略として世界初のアライアンス組織「Airbnb Partners」を創設。立ち上げからわずか5カ月で会員企業が74社を突破しました。今後も自治体や多くの企業と連携し、イベント民泊などへの取り組みを通じて地域経済活性化や日本の魅力を国内外へ発信する考えです。

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5.まとめ

2016年のリオ五輪で公式サプライヤーに選ばれたエアビーアンドビーの発表によると、期間中に同サービスを利用した人は85,000人に上り、全体の経済活動は推計約1億ドルとされています。

来る東京五輪においても、経済効果はもちろんのこと、民泊を通じた国際交流の増加によって“平和の祭典”としての役割がより深まることが期待されます。

多くの外国人旅行者が訪れるオリンピックにとって、民泊の存在は今後なくてはならないものになるかもしれません。