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2017年に入り民泊新法が成立しました。これによって、今まで法律上グレーゾーンになっていた部分にルールが定められることになり、民泊業界はさらに盛り上がりを見せています。ただし、新法の内容に対して好意的な意見だけではなく、民泊ホスト、関連事業者、仲介プラットフォーマー、自治体など、立場によって受け止め方が異なるようです。

どんなことが定められているのか、知っておくべき大切なポイントを見ていきしょう。

※編集部注:2017年10月31日に、注意点等について加筆修正しました。

※編集部注:2017年9月11日に、開始時期について加筆修正しました。

目次

        1. 民泊新法(住宅宿泊事業法)とは?
          ・民泊新法は、いつ成立して、いつ施行されるのか
          ・なぜ民法新法が作られたのか
          ・民泊新法が適用される条件
        2.  民泊新法(住宅宿泊事業法)の概要・民法新法の対象者
          ・住宅宿泊事業に係わる届出制度の創設
          ・住宅宿泊管理に業に係わる登録制度の創設
          ・住宅宿泊仲介業に係わる登録制度の創設
          ・民泊新法の注意点
        3. 民泊新法(住宅宿泊事業法)に対する利害関係者の反応
          ・民泊に対する企業の反応
          ・民泊に対する自治体の反応
        4.  まとめ

1.民泊新法(住宅宿泊事業法)とは?

民泊新法は、ホテルや旅館など、これまでも存在した旅館業法に基づく宿泊施設ではなく、住宅での宿泊事業を規定するための新しい法律です。

民泊新法は、いつ成立して、いつ施行されるのか

法案自体は2015年ころから必要性が叫ばれるようになり、2017年3月10日に閣議決定、6月1日に衆院で可決、6月9日には参院でも可決され、成立となりました。法案成立の段階では、2018年1月開始を目指していましたが、各自治体の準備期間などを考慮して同年6月施行に変更となりました。

なぜ民泊新法が作られたのか

近年、急激に訪日外国人観光客が増えて、人気の観光地や首都圏では宿泊施設の不足が見られるようになりました。ホテルや旅館など既存の宿泊施設だけでは、訪日外国人観光客のニーズに対応しきれなくなっていたのです。そこで台頭してきたのが「民泊」でした。

ところが日本には、宿泊施設が安全で快適な滞在を提供するための「旅館業法」があり、宿泊施設にはこの業法が適応されなくてはいけないという決まりがあります。しかし、一般の住宅で宿泊事業を行う民泊にとって、旅館業法の厳しい規定を満たすことは困難なものでした。

そのため無許可で民泊営業をする施設が続出し、トラブルも増加。しかしそれを規制する法律もないので、訴訟沙汰になっても明確な規定はなく、民泊という新たな宿泊形態に対応するために、現実的な法規制が求められていました。

民泊新法が適用される条件

住宅宿泊事業法案要綱によると、「新法で定められる民泊」とは、「旅館業以外の人が住宅に人を宿泊させる行為」で、「行為が年間180日を越えないもの」が民泊新法の適応条件とされています。

ここでの住宅とは、「家屋の中に台所、浴室、便所、洗面設備等の設備」があり、「実際に人の生活拠点として使われているところ」または「民泊利用の前後に人に貸し出ししている家屋」と定義されます。

 

2.民泊新法(住宅宿泊事業法)の概要

ここからは民泊新法の概要を見ていきましょう。

民泊新法の対象者

民泊新法が定義する対象者は下記の3者です。

・①住宅宿泊事業を運営する事業者
180日を超えない範囲で、住宅に人を宿泊させる事業者のこと。民泊のホストがこれにあたります。

・②住宅宿泊を管理する事業者(①から委託されて管理を行う事業者)
①から委託を受けて、住宅宿泊の維持管理をする事業者のこと。民泊代行業者がこれにあたります。

・③住宅宿泊を運営する人と宿泊したい人を仲介する事業者
届け出をして許可された住宅に泊まりたい人と、住宅宿泊事業を運営する人を仲介して、契約の媒介をする人。民泊プラットフォーム事業者がこれにあたります。

住宅宿泊事業に係る届出制度の創設

 [1] 住宅宿泊事業を営もうとする場合、都道府県知事への届出が必要

民泊を営業する場合(民泊新法対象者の①に当たる事業者)は、都道府県知事または保健所設置市(政令市、中核市など)、特別区(東京23区)など、各地域の住宅宿泊事業の事務処理をするところの長に届出が必要です。

 [2] 年間提供日数の上限は180日

180日を越えて民泊営業をすると旅館業法の対象となるので、その許可がない場合は罰則の対象になります。

 [3] 地域の実情を反映する仕組み(条例による住宅宿泊事業の実施の制限)を導入

住宅宿泊を始めたことによって、騒音などの生活環境の悪化を防ぐ必要があるときは、合理的な範囲で条例を設けて、営業日数を制限することができます。

 [4] 住宅宿泊事業の適正な遂行のための措置(宿泊者の衛生の確保の措置等)を義務付け

衛生確保と宿泊人数の制限措置、防災対策とその表示、外国語での設備利用法や交通手段の説明の提供、宿泊者名簿の作成・備付け、騒音防止のための説明、近隣からの苦情への対応、公衆への標識の掲示等、業務上守るべき規定が示されています。

 [5] 家主不在型の住宅宿泊事業者に対し、住宅宿泊管理業者に住宅の管理を委託することを義務付け

ホストが不在の民泊物件は、民泊代行業者に管理を依頼することが義務付けられています。都道府県知事は違反を確認した場合、業務停止またが業務の廃止を命じることができます。

住宅宿泊管理業に係る登録制度の創設

 [1] 住宅宿泊管理業を営もうとする場合、国土交通大臣の登録が必要

民泊代行業を運営する場合(民泊新法対象者の②に当たる事業者)は、国土交通大臣の登録が必要です。
 [2] 住宅宿泊管理業の適正な遂行のための措置(住宅宿泊事業者への契約内容の説明等)と(1)[4]の措置の代行を義務付け

民泊代行業者は、契約を結ぶとき、ホストに契約書の交付や書面での説明義務あること、誇大広告や事実でないことを告げたりや不都合なことを意図的に隠すことも禁止されています。

国土交通大臣は登録の取り消しまたは業務停止を請求できます。都道府県知事は違反を確認したとき、国土交通大臣に処分を要請できます。

住宅宿泊仲介業に係る登録制度の創設

 [1] 住宅宿泊仲介業を営もうとする場合、観光庁長官の登録が必要

民泊仲介業を運営する場合(民泊新法対象者の③に当たる事業者)は、観光庁長官の登録が必要です。

  [2] 住宅宿泊仲介業の適正な遂行のための措置(宿泊者への契約内容の説明等)を義務付け

民泊プラットフォーム事業者は宿泊者に対して書面での説明義務あること、不当な斡旋や事実でないことを告げたり、不都合なことを意図的に隠すことも禁止されています。

観光庁長官は違反があれば、登録の取り消しまたは業務停止を請求できます。

参考:

観光庁報道発表 http://www.mlit.go.jp/kankocho/news06_000318.html

住宅宿泊事業法案要綱  http://www.mlit.go.jp/common/001175229.pdf

民泊新法の注意点

民泊新法では、事業者資格を正式に取得すれば、どこでも民泊事業を開始して良いというわけではありません。

マンションの空き部屋などを利用して民泊事業を行う場合は、管理規約に注意が必要です。マンションの管理規約で「民泊不可」とある場合は、例え、有資格者でも民泊営業をすることはできません。

これまで違法な民泊によって騒音やゴミの不法投棄、不特定多数の外国人の出入りなどで生活が脅かされるといったトラブルも多く起きており、そのようなトラブルを防止し一般住民を守るためにマンションが管理規約を改正することも予想されます。

また都道府県、自治体に向けての条例の基準も整備されつつあります。自治体によってはより規制を強化する傾向のところもあり、そういったところでは民泊新法に上乗せ規制する条例の制定を検討しています。

一方で政府は、民泊を普及させたいという考えのもと、自治体の上乗せ規制を必要最小限にするよう求めるルールを固めました。例えば民泊新法で180日を上限とされた営業日数をさらに制限する場合、民泊営業の区域と期間を具体的に明記すること、住環境が悪化防止に配慮する、という範囲にとどめるようにしています。

 

3.民泊新法(住宅宿泊事業法)に対する利害関係者の反応

民泊に対する企業の反応

民泊新法の成立を受けて、レオパレス21が民泊市場への参入を検討していることがわかりました。ただし同社は民泊を運営するのに必要な精算や開錠などに関わるITインフラを整備しつつ、参入時期を見極める模様です。これは、ホスト不在型民泊は外部の民泊仲介業者に管理を依頼しなくてはならず、民泊営業できる日数にも上限があるため、現状では採算ベースに乗らない恐れがあるためです。

一方で民泊プラットフォーム事業者の代表格Airbnbは歓迎ムード。3月の閣議決定に際して、今後の民泊の推進につながるものと、好意的なコメントを発表しています。

民泊に対する自治体の反応

自治体によっては、成立したばかりの民泊新法にすでに否定的な姿勢を見せているところもあります。

北海道や京都市、軽井沢では、独自の営業制限を検討しています。京都では、地域との調和や京都らしい良質な宿泊サービスについて懸念しており、市長は自治体レベルで独自のルールを制定できるようにすることと、実効性のあるものにしてほしいとの要望を示しています。長野県軽井沢町では公式サイトで民泊施設の設置を禁止すると公表し、強硬な姿勢を見せています。

その他の自治体でも、別荘地ではゴールデンウィークや夏休み期間の民泊営業を制限したり、学校周辺では登校日の営業を制限するなど、地域の実情に沿った制限を検討しています。観光庁長官が自治体によって年間ゼロ泊とするところが出てきても、地域の実情がさまざまなので最終的には各自治体の判断となるという見解を示したとも言われています。

政府としては、外国人観光客誘致を積極的に実施していきたいという意向がありますが、自治体も近隣住民の生活や景観の保護に配慮したいと考えています。そのため、自治体が独自に民泊営業に制限を設ける条例を策定することが検討されています。それに対して、政府は自治体が過干渉になり、民泊営業、外国人誘致の障壁にならないように、条例のためのガイドラインを策定しています。

 

4.まとめ

近年急速に普及した日本での民泊利用。法整備を求める声が多かった中、ついに民泊新法が成立しました。法律が設けられたことによって制度として明確になった部分が多く、新法施行に向けた準備など、各方面での動きは今後ますます活発化していくことが予想されます。自治体は実情に応じた民泊営業の制限を検討しているのに対し、政府としては過度な規制をせず、民泊を外国人観光客の受け皿のひとつとしたい考えです。引き続きこの動向には注目していきましょう。

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