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MOOVERは国境や通信キャリアの垣根を越え、すべてのモバイルユーザーがモバイルデータ通信のシェア(売買)を可能にするサービスです。

データのシェアにより、世界中のモバイルユーザーが感じているであろうデータ容量の余剰や不足に対する不満を解消できるだけでなく、先進国と途上国の間のデジタル・ディバイドを解消できる可能性を秘めています。2017年末から順調な資金調達を達成しており、注目のシェアリングエコノミーサービスです。

目次

  1. “MOOVER”とは
    ・概要について
    ・サービスの仕組みについて
  2.  13日間で約28億円の資金調達に成功
  3.  “MOOVER”の目指す未来
  4.  まとめ

1.“MOOVER”とは

・概要について

MOOVERは契約する通信キャリアの垣根を越えて、全てのモバイルユーザーと余ったモバイルデータ通信のシェア(売買)を可能にするシェアリングエコノミーサービスです。現在成長著しいシェアリングエコノミーに、モバイルデータ通信の分野でのサービスが誕生しようとしています。

なぜ、MOOVERはモバイルデータ通信をシェアすることへのニーズがあると考えているのでしょうか。それは、多くの人がより便利にデータ通信を利用できるようになるだけではなく、依然存在するデジタル・ディバイドを解決できる可能性を秘めているという理由もあるのです。

携帯電話の電波が届く範囲内であれば場所を問わず利用できるという利便性、固定回線を設置するよりもコストが押さえられるという経済性から、モバイルデータ通信はインターネットに接続する際に世界中で広く使われています。しかし、その回線の速さには先進国と途上国で大きな差があるのが現状です。

世界中を見渡してみると、4G回線(約25.6億件、32%)を利用している人の大半が先進国であり、3G/2G 回線(約54.4億件、68%)は途上国で主に利用されています。

引用:https://opensignal.com/reports-data/global/data-2017-02/report.pdf

この地図は、各国の通信速度を表すもので、青が濃いほど通信速度が速く、薄いほど遅いことを表しています。ご覧のとおり、通信速度が速い地域は、欧米各国および日本・韓国等の経済的先進国であり、反対に遅い地域は、開発途上国であるアフリカ・中東・アジア諸国です(補足:通信速度が遅いとされる薄く塗られた国の中には、法規制や使用制限により「Open Signal」が使えず速度不明の国があります。この事実から、本来のネット社会から閉ざされた地域があるという事を認識しておく必要があります)。

つまり、途上国ではアプリのダウンロードや動画の読み込みが困難なケースが圧倒的に多いのです。

引用:http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h23/html/nc222320.html

これは少し古いグラフですが、平成23年版情報通信白書に掲載されている所得水準別のインターネット利用者構成比です。インターネット利用者数と国の貧富には明確な相関関係があることが分かり、先進国と途上国の間にデジタル・ディバイドがあることを裏付けています。

そこで、MOOVERがモバイルデータ通信を売買するシェアリングエコノミーサービスを行うことにより、デジタル・ディバイドを解消できるのではないかと期待されているのです。

近年、インターネットの普及により、日本でもシェアリングエコノミーに参入する企業が増えており、民泊やカーシェアリングの分野などでシェアリングエコノミーサービスが誕生しています。日本のシェアリングエコノミーへの参加企業については、以下の記事を参考にしてください。

参考記事:

急成長するシェアリングエコノミーへの企業参加〜事業別参入・提携企業まとめ

・サービスの仕組みについて

それでは、MOOVERではどんなことが可能になるのでしょうか。Mooverは自社のホワイトペーパーである2人のスマートフォンユーザーの状況を例にとり、説明していきます。

マイクのケース:
スマートフォンを利用しているマイクは、A社のSIMを契約して毎月3GBプランを選択しています。しかし月末近くでも1GB余らせていました。それでもA社は通信量が余ったからといって返金には応じてくれません。マイクは余ったデータ通信を使わずに利用料を支払う他ありません。

ジェーンのケース:
節約家のジェーンはB社の1GBプランを契約しています。しかし月途中で使い切ってしまい、速度制限がかかってしまいました。これを B社に相談するも、割高な価格でデ ータ通信の追加購入を勧められます。ジェーンはお金を使うことにシビアなので、泣く泣くスマートフォンの利用を控える事にしました。

私たちがマイクやジェーンと同じ状況に陥ることは珍しいことではありません。この状況はマイク、ジェーンどちらにとっても、「不利益で不便なこと」であり、通信キャリアの「都合の良いこと」を押し付けられているといえます。
また、マイクと同じ状況に陥ると、データの余剰が生まれます。一人一人の余剰データは微々たるものかもしれませんが、それが集まると巨大な量のデータ通信の余剰と、それに対して支払われる莫大なコストが発生します。

引用:https://www.cisco.com/c/dam/m/en_in/innovation/enterprise/assets/mobile-white-paper-c11-520862.pdf

このグラフが表しているのは、世界最大のネットワーク機器メーカーであるCiscoの調査結果です。それによると、2017年に世界全体で月間11EB(約110億GB)のモバイルデータ通信の余剰があると算出されました。

それでは、MOOVERではどのようにこの問題を解決できるのでしょうか。MOOVERではネットワークを介することにより、マイクは余ったモバイルデータ通信量1GBをジェーンに買ってもらうことで、今まで捨ててしまっていたモバイルデータ通信量をマネタイズできます。利用制限がかかっていたジェーンは、マイクから売ってもらうことで、すぐに快適なスマートフォンライフを再び手にすることかができます。MOOVERでは、データ通信を売買する人や通信キャリアにかかわらず、匿名性を保ったまま安全にデータの売買を行うことができます。

 

2.13日間で約28億円の資金調達に成功

MOOVERはプロジェクト実現のために、2017年12月から資金調達を開始しました。この資金調達でMOOVERは最終的に合計5000万ドル(日本円で約53億円)を集めることを目標としており、そのスケジュールは3つのフェーズに分かれています。2017年12月1日から始まったフェーズ1は目標の2500万ドル(日本円で約26.6億円)を13日で達成し、最終的に約2600万ドル(日本円で約28億円)の資金調達に成功しました。

2018年2月1日からフェーズ2が始まりましたが、こちらも2月12日に目標の1500万ドル(日本円で約16億円)を達成し、フェーズ2が終了しました。この2つのフェーズ達成のニュースからも、MOOVERへの関心の高さを伺い知ることができます。ちなみに、最終フェーズであるフェーズ3は、2018年4月1日より開始する予定です。

MOOVERにコントリビューション(MOOVERでは、資金調達をこう呼んでいます)すると、MOVEトークンが作成され、それぞれの立場に応じた割合で配分されます。MOVEトークンとはMOOVER内でモバイルデータ通信を売買する際に使用するトークン、つまり独自のコインのようなものです。

https://moover-contrib.tech/jp/

 

3.“MOOVER”の目指す未来

MOOVERはどんな未来を目指しているのでしょうか。MOOVERプロジェクトのCEOであるジョン・パターソンはこのように語っています。『(プロジェクトの目的は)情報格差が生む情報操作のない世界の実現です。通信網が整っていない、または通信料が高額で支払えないという理由で、情報にアクセスできる機会を奪われてしまう現状を改善することが大切だと思っています。』また、パターソン氏は情報にアクセスできる利点についてこんな例をあげて話を続けます。『極端な例になってしまいますが、病気にかかっても、悪魔の仕業だと言って病院に行かず、お祈りまたは悪魔祓いの儀式をしたりする人がいますが、その結果、助かるはずの病が原因で命を落としてしまうこともある。そうではなく、病気にかかった人が、治療方法として「お祈りもあるが現代医学もあるよ。」という情報を得る機会を平等に与えたいのです。

つまり、MOOVERがあることによって世界中の人々が手軽に情報にアクセスできるようになれば、病気を治すことができて元気になる人が増えたり、いじめに悩んでいる人が他の価値観やコミュニティを知ることができたり、勉強やスポーツで活躍する機会を得られるようになったりといったことが今よりもたくさん起こるかもしれません。私たちは普段、情報が得られないことにより不利益を被っている人がいることはあまり気に留めないかもしれません。しかし、パターソン氏はMOOVERを通じて、世界中の人々が今よりも幸福になる未来を実現したいと考えているようです。

シェアリングエコノミーとデジタル・ディバイドについては、こちらの関連記事も参考にしてください。

参考記事:

デジタル格差が生む「シェアの闇」と「潜在ニーズ」

 

4.まとめ

MOOVERは単なるモバイルデータ通信のシェアを行うだけではなく、それによって先進国と途上国のデジタル・ディバイドを解消し、ひいては多くの人が新しい価値観に触れて幸せな生活を送れるようになることを目標としています。単なるビジネスの側面だけではなく、世界中の人をより幸せに導きたいという社会企業的な側面が多くの投資家を引きつけ、順調な資金調達を可能にしているといえるのではないでしょうか。これからも、MOOVERの展開から目が離せません。

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