シェアリングエコノミーラボ (Sharing Economy Lab)

プラットフォームビジネスモデル入門&実践【第4回】~プラットフォーム事業機会の探索~

【第4回】プラットフォーム事業機会の探索

事業機会の探索ステージ

今回は、プラットフォームビジネスに関する事業機会の探索について取り上げます。本連載の第1回に紹介しましたが、もう1度プラットフォーム指向ビジネスモデルデザインの4つのステージを見てみましょう(図1)。適切な事業機会を発見することは、プラットフォームビジネスの成功オッズを高める上での重要なステージとなります。言い換えれば、このステージにおいて適切な事業機会を発見すれば、1つ目のキャズム(克服しなかければならない大きな溝)を乗り越えられることを意味します。これは、スタートアップ、既存企業における新規事業、既存企業におけるデジタルトランスフォメーションのいずれに対しても当てはまるものです。


図1:プラットフォーム指向のビジネスモデルデザインの4つのステージ

対象とするエコシステムの選択

事業機会の探索ステージは、対象とするビジネスエコシステムを選択することからスタートします。参考として、第2回で取り上げたマッキンゼー社による2025年のビジネスエコシステムの分類と市場規模予測を再掲します(図2)。楕円の上半分は主に最終消費者が個人であり、下半分は法人と思って差し支えないでしょう。例えば、MaaS(移動サービス)に関連する市場への参入を検討している企業は、「移動」というビジネスエコシステムの周辺に属することになります。既存企業で、パイプライン型からプラットフォーム型への変革を推進しようとしている場合においては、まず自身がどのビジネスエコシステムに属することになるのかを見定めることが重要です。


図2:ビジネスエコシステムの分類と市場規模(2025年)

一方、各々のビジネスエコシステムの内部で、どのような取引や交流が現在行われているのか、あるいは将来行われそうかを知ることも重要です。一般的に、プラットフォームは取引や交流の対象(価値の交換)によって、交換型プラットフォームと制作型プラットフォームという2つのタイプに分類されます(図3)(※1)。

交換型プラットフォームとは、エコシステム内のエンティティ(プレイヤー)が保有しているプロダクトやグッズ、知識やノウハウ、金銭、スペースなどの交換を容易にするもので、いわゆるシェアリングエコノミーを促進するためのプラットフォームとほぼ同じと考えてよいでしょう。他方、制作型プラットフォームとは、プロダクト、ソフトウェア、コンテンツなどの生成と消費を容易にするためのプラットフォームを意味します。

図3:プラットフォームのタイプ

前者の交換型プラットフォームの構築を目的とする組織(特にスタートアップ)は、協働経済ハニーコム(※2)というフレームワークを活用して、対象とする領域を選択することもできるでしょう。協働経済ハニーコムは、シェアリングエコノミーのカテゴリーや実際に活動しているスタートアップのリストを提供しています。現在のバージョン3.0では、ワーカー支援、学習、ウェルネスと美容、市政、金銭、グッズ、健康、スペース、食べ物、ユーティリティー、移動サービス、一般サービス、ロジスティクス、車両シェア、企業と組織、分析と評判という16のカテゴリーと41のサブカテゴリー、厳選された140の世界中のスタートアップが紹介されています(図4)。


図4:協働経済ハニーコム3.0

(※1)「プラットフォーム革命」(英知出版)をベースに作成しています。
(※2)以下のサイトに詳細情報が載っています。
http://www.web-strategist.com/blog/2016/03/10/honeycomb-3-0-the-collaborative-economy-market-expansion-sxsw/

エコシステム環境のアセスメント

対象とするビジネスエコシステムを選択したら、そのエコシステムに関する現在の環境を4つの視点からアセスメントすることをお勧めします。4つの視点とは、市場の趨勢(市場の論点、市場セグメント、ニーズと需要といった主に消費者エンティティに関するもの)、業界の趨勢(主力プレイヤー、新規参入者、提供されている主要なプロダクトとサービス、その他の利害関係者など生産者エンティティに関するもの)、重要なトレンド(技術、規制、社会経済や文化などに関するもの)、マクロ経済の動向(グローバル市況、資本市場、経済的なリソースやインフラなどに関するもの)です(図5)(※3)。


図5:エコシステム環境のアセスメント

次に、今回のブログの焦点となるテーマとして、プラットフォームに関する事業機会を発見するための3つのアプローチをご紹介しましょう。これらのアプローチの中で、どれが最も相応しいかはケースバイケースです。新規事業なのか、既存事業の変革なのかによっても異なります。また、交換型プラットフォームなのか、制作型プラットフォームなのかによっても異なってくるでしょう。感覚的にベストと思われるものから活用してみて下さい。

(※3)「ビジネスモデルジェネレーション」(翔泳社)をベースに生成しています。

エコシステムの活性化に関する3つの質問

最初のアプローチは、選択したビジネスエコシステムの活性化度合い(あるいは非効率性)に関するものです(図6)。プラットフォーム所有者のミッションとは、第2回目のブログで言及したように、エコシステム内におけるエンティティ間の取引や交流(価値の交換)を促進することによって、エコシステムを活性化させることであり、存続と繁栄のための健全なエコシステムは、生産性、堅牢性、多様性という3つの条件を満たす必要があることを思い出しましょう。

1つ目は、「ニッチプレイヤーがどれだけ存在しているか?」という質問です(主に生産者エンティティに関する)。言い換えれば、これはエコシステム内におけるロングテールの存在に関するものです。例えば、音楽や書籍の製作者(潜在的なエンティティを含む)としてのニッチプレイヤーは数多く存在する一方で、オフライン上でそれらを販売することができるものはほんの僅かです。

語学についても考えてみましょう。ある説によると、マイナーなものを含めると、全世界には約690の言語があると言われています。最大手の語学スクールであっても、取り扱っている言語は10にも満たないと思います。プラットフォームを活用すれば、限界費用ゼロ(※4)というプラットフォームの特性を活かして、マイナーな言語を教えたい人(生産者エンティティ)とその言語を教わりたい人(消費者エンティティ)を結び付けられる大きな潜在性をもっているのです。


図6:エコシステムに関する3つの質問

2つ目は、「遊休資産がどれだけ存在しているか?」という質問です(生産者および消費者エンティティの双方)。遊休資産とは、個人や法人にかかわらず、十分に稼働していない資産を意味します。皆さんの中にはマイカーを所有している方も多いでしょうが、1週間の中でどれだけの時間使っているでしょうか?

また、企業が保有している会議室などのスペース、商品を保管しておくための倉庫なども同じことがいえるでしょう。「ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなくて穴である」というフレーズは、この後で簡単に紹介するジョブ理論を説明する際に使われるものですが、ある調査によれば、一生のうちで人々がドリルを使っている時間は、13時間にも満たないのです!

3つ目は、「選択の困難性/情報の非対称性が存在しているか?」という質問です(主に消費者エンティティに関する)。選択肢の少なさとは、消費者が複数の生産者の中から最適なものを選択することが難しい状態を意味します。タクシー業界を考えてみましょう。Uber以前において、私たちは乗車したいタクシーを選択することは困難でした。一方、情報の非対称性とは、生産者エンティティのみが専門知識や情報をもっていて、消費者エンティティはそれをよく知らないという状態を意味します。例えば、医療業界を考えてみれば、私たち一般的な消費者は多くの情報を持ち合わせていないことに気付くでしょう。

以上の3つの質問のうち、1つ以上において潜在性が高いかどうかを検討してみましょう。

(※4)限界費用ゼロとは、1つ追加で価値あるものを生成および提供するためにかかるコストが限りなくゼロに近づくことを意味します。

既存バリューチェーンに関する10の質問

2つ目のアプローチは、選択したビジネスエコシステムにおいて取引されている主要なプロダクトやサービスのバリューチェーン(※5)に関するものです。具体的には、10の質問に対する回答を検討していきます(図7)。典型的には、イエスの回答の数が多いほどプラットフォームに関する事業機会が大きいといえます。

以下、皆さん自身がアマゾンのジェフ・ベゾスになったつもりで、書籍という商材のバリューチェーンを考えてみましょう(※6)。

(1)そのプロダクト/サービスはデジタル化可能か、あるいはデジタルによって強化/補完できるか?(イエス。キンドル端末、デジタル書籍、セルフ出版サービスによってできる!)

(2)それをデジタル的にプロダクションすることは可能か?(イエス。書籍の制作プロセスをデジタル化できる!)

(3)デジタル的に消費者とコミュニケーションすることは可能か?(イエス。オンライン上で消費者とコミュニケーションできる!)

(4)消費者はデジタル的にそれを購買することは可能か?(イエス。オンライン上でワンクリック購買できる!)

(5)デジタル的にそれを消費者にデリバリーすることは可能か?(イエス。オンライン上でデジタル配信できる!)

(6)消費者はデジタル的にそれを消費することは可能か?(イエス。キンドル端末やWebアプリ上で読書できる!)


図7:バリューチェーン分析

(7)このアイデアをプラットフォーム化する場合、既存の生産者を増やしたり、新しい潜在的な生産者を加えたりすることが可能か?(イエス。自費でも出版したいと思っていた生産者を加えられる!)

(8)このアイデアをプラットフォーム化する場合、既存の消費者を増やしたり、新しい潜在的な消費者を加えたりすることが可能か?(イエス。いつでもどこでも、手軽かつ安価に読書したい消費者を増やせる!)

(9)このアイデアをプラットフォーム化する場合、既存のゲートキーパー(※7)を減らしたり、無くしたりすることが可能か?(イエス。出版会社の編集担当者や書店の販売員を減らしたり、無くしたりできる!)

(10)このアイデアをプラットフォーム化する場合、既存のバリューチェーンのインフラを変えることができるか?(イエス。大きく変革できる!)

このアプローチは、スタートアップだけでなく、プラットフォームを含むデジタルトランスフォメーションを検討している企業全般に役立つでしょう。

(※5)バリューチェーン分析とは、事業活動を機能ごとに分類し、どの部分(機能)で付加価値が生み出されているか、競合と比較してどの部分に強み/弱みがあるかを分析し、事業戦略の有効性や改善の方向を探ることを指します。
(※6)「Platformit – Part One: Look Back, Around, Within and Beyond」の記事をベースに生成しています。

(※7)ゲートキーパー(門番)とは、バリューチェーンの各々の機能において、次の機能に進めるかどうかを判断する人や組織をさします。

ジョブ分析(顧客が成し遂げようとしていること)

3つ目のアプローチは、特定のプロダクトやサービスにかかわらず、エコシステム内の消費者エンティティが成し遂げようとしていること(顧客のジョブ)(※8)を明確にし、それを成し遂げるためのプロセス(ジョブステップ)に分解することから始めます。

「海外旅行をする」「夕食の支度をする」「転職する」など、特定のスキルや技術を習得するようなジョブは、その実現ステップに分解することが可能です。また、それを上手く成し遂げるには複数のプロダクトやサービスが消費されている可能性があります。このアプローチは、現在の主力プロダクトやサービスの販売を継続しつつも、そのプロダクトやサービスの補完財(※9)に対する取引を、プラットフォームで活性化させるのが目的です。これが上手く機能すれば、現在の収益を増やすだけでなく、新しい収益源を生成できるかもしれません。

例えば、iPodをはじめとするデジタル音楽再生プレイヤー(プロダクト)は音楽を聴くことには役立ちますが、聴きたい音楽の収集や配置はできません。アップル社は後者をiTunesというプラットフォームを構築することによって、音楽(マイアルバム)を楽しむという顧客のジョブ全体にわたって役立つものを提供しました(図7)(※10)。


図8:ジョブ分析

このアプローチで重要なことは、顧客(消費者)の視点で常に捉えることです。例えば、銀行の住宅ローン部門の視点からみれば、顧客のジョブは「住宅ローンサービスを受ける」かもしれませんが、顧客が本当に成し遂げたいジョブは「マイホームを手に入れる」ことです。このように考えることによって、多くの補完財(物件や地域の情報など)をプラットフォーム上で提供するというアイデアが生まれてくるのです。

(※8)ジョブ理論とは、人々がプロダクトやサービスを消費するメカニズムを解明することで、予測可能なイノベーションを実現するためものです。
(※9)補完財とは、パンとバター、自動車とガソリンのように、相互に補完して効用を得るプロダクトやサービスの関係を指します。
(※10)アナログ時代、マイアルバムを作ることがいかに大変だったかは、音楽が好きな年配の方であれば分かると思います。

次回から、プラットフォーム指向ビジネスモデルデザインの4つのステージの中核となるプラットフォーム戦略デザインについて、複数回に分けて説明していきます。


筆者:白井和康
ビジネスイノベーションハブ株式会社代表取締役。大手システムインテグレーター、コンサルティングファームを経て、2014年11月にビジネスイノベーションハブを設⽴。ビジネスモデルのイノベーションに関するコンサルティング、プロジェクト支援を手掛ける。㈱ガイアックスのパートナーとして、プラットフォームサービスのビジネス戦略ノウハウを1日で習得できるワークショップ を定期開催。

「ビジネスアーキテクト養成講座」
https://bizzine.jp/article/corner/13
「事業企画の現場で使うツール」
https://bizzine.jp/article/corner/52
「顧客のジョブを商品開発や事業開発に使うためのノウハウ」
https://bizzine.jp/special/jobs_to_be_done

主な講演

      • PMI⽇本フォーラム2018(ジョブ理論によるイノベーションプロジェクト)
      • ⽇経ものづくりセミナー(知財ビジネスモデル)
      • 翔泳社/⽇⽴Business Book Academy(ビジョンとミッションの作り方)
      • ビジネスモデルイノベーション協会(ビジネスモデルオリンピア2016)