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【第1回】プラットフォーム指向ビジネスモデルデザインの4つのステージ

イントロダクション

GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)に代表されるように、デジタルテクノロジーを活用したプラットフォームは、現代において経済的、社会的に最も重要な発展を遂げてきた最強のビジネスモデルとして注目されています。ビジネスモデルとは、組織が価値を生成、提供、獲得する方法の論理的根拠を説明するものであり(※1)、デジタル経済の進展を背景に、プラットフォーム指向のビジネスモデルは20世紀の世界経済を牽引してきたパイプライン指向のビジネスモデル(※2)を凌駕しつつあります。

本稿は、プラットフォーム指向のビジネスモデルを構築しようとしている全ての組織を対象としたガイドラインを提供していくことを目的としています。具体的には、シェアリングエコノミー型のビジネスモデルを構築しようしているスタートアップ、プラットフォーム指向の新規事業を企画中の組織、デジタルトランスファメーション(※3)を実現する上で現行のパイプラインからプラットフォーム指向のビジネスモデルに転身しようとしている企業が含まれます。

また、現在注目されているMaaS(※4)事業を検討している組織も対象となります。現時点で、プラットフォーム指向のビジネスモデルに関する具体的な検討をしていない組織でも、近い将来における事業シナリオを考える上で役立つでしょう。なぜならば、プラットフォームを活用した新規参入者が、皆さんの企業または業界が近い将来において破壊(※5)する可能性を誰も否定することができないからです。ことわざにある通り、「備えあれば憂いなし」です。

さて、第1回では、プラットフォーム指向のビジネスモデルデザインにおける4つのステージを概説していくことから始めます。ご紹介するフレームワークと付随するツール群は、イタリアのBoundaryless Srlというプラットフォームに関するデザインコンサルティンググループによって生成されたものをベースとしています(※6)。

このフレームワークの特長の1つは、現代の事業開発やプロダクト開発に幅広く活用されているデザイン思考やリーンスタートアップの考え方を部分的に採用していることにあります。ただし、デザイン思考やリーンスタートアップの考え方が、ターゲットとする顧客のニーズを満たし、課題を解決するためのプロダクトのデザイン(サービスを含む)であったのに対し、これからご紹介していくフレームワークは関係性のデザイン(後述)に焦点を置いていることが大きな違いです。

 

プラットフォーム指向ビジネスモデルデザインの4つのステージ

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(※1)これは、ビジネスモデルキャンバスを考案したアレックス・オスターワルダー(スイスのコンサルタント)らによる定義です。より分かりやすく言えば、ビジネスが上手く機能するストーリーと捉えてもよいでしょう。
(※2)バリューチェーンに代表されるように、ヒト、モノ、カネといった経営資源をプロダクトやサービスに変換し、最終消費者に届けるための直線的な活動体系から構成されるビジネスモデルを指します。
(※3)デジタルトランスファメーション(DX)とは、デジタル技術を活用したビジネスモデルを通じて組織を変革し、業績の改善を図るプロセスを指します。ビジネスモデルのプラットフォーム化は、デジタルトランスファメーションに対して組織が目指す方向性の1つです。
(※4)MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス)とは、情報通信技術を活用することにより、「移動」をサービスとしてシームレスにつなぐ概念を指します。MaaSを運営する組織は、移動に関するデジタルプラットフォームを構築/所有することになります。
(※5)ディスラプティブという言葉は「破壊的」と訳されることが多いですが、本来は「(特定の企業や業界)を混乱させる」という意味合いが強いと思います。
(※6)これは「Platform Design Toolkit」と呼ばれるものであり、クリエイティブ・コモンズのShareAlike 4.0インターナショナル・ライセンスの下でライセンスされています。日本語でのローカライズとカスタマイズは、ビジネスイノベーションハブ株式会社が行っています。

ステージ1:事業機会の探索

それでは、4つのステージを俯瞰していきましょう。

最初のステージは、「事業機会の探索」です。これは、プラットフォーム指向のビジネスモデルを追求する組織(プラットフォーム所有者(※7)と呼ぶことにします)が、対象とする適切な領域の中から事業機会を見つけ出すことを意味します。これを行うために、エコシステム(正確にはビジネスエコシステム)という概念を用いていきます。

エコシステムとは、「協働と競争の双方を通じて、価値の生成と消費を行う多様なエンティティから構成される動的かつ共進化するコミュニティ」を意味します(※8)。エコシステムは、従来の製造業、小売業、サービス業といった業界の垣根を超えた横断的な概念でもあります。

プラットフォーム所有者は、特定のエコシステムの中で適切な事業機会を発見し、ビジネスモデルの対象領域を自社中心からエコシステム全体に視点を広げていかなければなりません。すなわち、選択したエコシステム全体がプラットフォーム所有者にとってのビジネスモデルの対象領域となるわけです。

プラットフォーム所有者は、選択したエコシステム内の主要なエンティティ間の取引や交流(価値の生成と消費=価値の交換)を活性化し、次にエコシステム全体の健全性を保ちながら拡張させていくことを重要なミッションとします。これが、プラットフォーム所有者が焦点を当てるべき関係性のデザインの意味するところです。

事業機会の探索ステージと、2つ目のステージ(プラットフォーム戦略デザイン)の間には、最初のキャズム(プラットフォーム所有者として大きな成功を収めるために、乗り越えなければならない溝)が存在します。逆に言えば、この溝を上手く乗り越えることは、プラットフォームビジネスモデルの成功オッズを大きく高めることとなります。

このステージにおいては、選択したエコシステムにおける環境アセスメント、現在のバリューチェーンや消費チェーンの分析を行うことが役立つでしょう。このステージでは、「特定のエコシステムにおいて、我々のプラットフォーム戦略を適用することができる有利な機会はどこに存在するのか?」という質問に対する回答を見つけることです。

(ステージ1)事業機会の探索

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(※7)まだプラットフォームを構築していない場合は、プラットフォーム指向者と呼ぶべきかもしれませんが、便宜的にプラットフォーム所有者とします。プラットフォーム形成者、プラットフォーマー、ネットワークオーケストレーターなどと呼ばれることもあります。
(※8)エコシステム(生態系)とは、元来、生物学で使われてきた概念です(海の生態系など)。エンティティとは、エコシステムの中で特定の役割をもつアクターやプレイヤーを指します。共進化とは、あるエンティティの変化が引き金となって、他のエンティティも変化するような意味で使われます。

 

 

ステージ2:プラットフォーム戦略デザイン

選択したエコシステムの領域の中から事業機会を発見したら、2つ目のステージである「プラットフォーム戦略デザイン」に移ります。プラットフォーム戦略とは、選択したエコシステム内における価値の交換を活性化し、その対価として金銭を獲得することを目的とするプラットフォーム所有者によって策定および実行される最も重要かつ基本的な戦略を意味します。

成功するプラットフォーム所有者となるためには、選択したエコシステムにおける主要なエンティティが持っているテクノロジー、ノウハウ、アイデアを把握している、プラットフォームに参画するエンティティ間の価値交換をコーディネートすることで利益を生み出す仕組みをつくることができる、エコシステム全体を指揮するエンティティとして適任であると認められている、という3つの条件(資格)を満たす必要があります(※9)。

このステージは、大きく2つのフェーズに分類されます。最初のフェーズでは、選択したエコシステム内における主要なエンティティのペルソナ(保有している資産や能力、課題やゴールなど)(※10)に関する洞察を得ることです。次に、各々のエンティティ間で交換されている、または交換される可能性のある価値の流れを分析することです。このフェーズは、「エンティティと潜在性のフィット」と呼ばれるものを確認するためのものです。

後続のフェーズにおいては、選択したエンティティがプラットフォームに参加することで、相互の取引/交流を容易にし、プラットフォーム上で学習/成長していくための2つのエンジン、つまり「取引/交流エンジン」と「学習/成長エンジン」に対する初期デザインをしていくことです。

最終的に、2つのエンジンから発見したものをレゴのブロックのように組合せながら、プラットフォームにおいて各々のエンティティが経験するプロセス(※11)を組み立て、これを実現するために必要なビジネスモデルの要素を抽出していきます。このフェーズは、「潜在性とプラットフォームのフィット」と呼ばれるものを確認するためのものです。

このステージは、プラットフォームデザインの4つのステージのうちの最も中核的なパートを占めるため、使用するツールを含め、この後の詳細な手順を説明していく予定です(※12)

 

(ステージ2)プラットフォーム戦略デザイン

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(※9)参照元:https://businessecosystem.unisys.co.jp/definition-of-ecosystem-01/
(※10)ペルソナとは、元来、特定のプロダクトやサービスの典型的な利用者像を示すマーケティング概念です。
(※11)プラットフォーム版の「カスタマージャーニーマップ」のようなものとお考え下さい。
(※12)ガイアックス社において、定期的に集合ワークショップを開催していく予定ですので、関心のある方は是非ご参加下さい。また、個社別ワークショップも承っておりますので、こちらまでお問い合わせ下さい。

 

 

ステージ3:市場におけるテストと検証

3つ目のステージである「市場におけるテストと検証」においては、主要なエンティティに対する一連のインタビューを行うことから始めます(前ステージにおいても、先行したインタビューを実施しますが)。これは、前ステージでデザインしたものの中で、最もリスクの高い仮説や前提に関するフィードバックを得るためです。

次に、プラットフォーム所有者は、MVP(最小実用プラットフォーム)(※13)を作成し、これらの仮説や前提の有効性をテスト/検証していきます。ここでは、有効または無効を決めるための具体的な基準を設けることが重要となります。

MVPによるテストと検証によって、初期のプラットフォーム戦略デザインが有効であることが確認されれば、これは2つ目のキャズムを乗り越えたことを意味し、プラットフォーム所有者は正式な組織を立ち上げ、システムを構築し、事業のローンチを進めていきます。無効であると判断されれば、前ステップに戻り、初期のプラットフォーム戦略デザインを改善していくことになります。

これは一般的に、短いサイクルによる反復プロセスであり、大きな成功を手中にするための必要不可欠な小さな失敗の積み重ねを受け入れなければならないことを意味します。ここまでの3つのステージは、対象とするエコシステムについて学習することが目的なのです。

 

(ステージ3)市場におけるテストと検証

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(※13)リーンスタートアップで活用されるMVP(最小実用プロダクト)のプラットフォーム版と捉えていただければと思います。

 

 

ステージ4:成長戦略の策定と実行

最後のステージである「成長戦略の策定と実行」では、プラットフォームビジネスモデルの特性である2つの車輪、ネットワーク効果(※14)と限界費用ゼロ(※15)を最大限活かし、プラットフォーム事業をスケールアップしていくための戦略を策定し、実行していきます。

これは、2つ目のステージでデザインしてきた2つのエンジン(取引/交流エンジンと学習/成長エンジン)をベースにし、2つの車輪を素早く回すことによってビジネスをスケールアップしていくことを目的とするものです。

ここでは、需要と供給のバランスを取りながらクリティカルマス(※16)に到達していくために解決しなければならないニワトリとタマゴのジレンマ(※17)、プラットフォーム上での適切な行動を各々のエンティティに促すためのガバナンスとルール、プラットフォームビジネスモデル特有の複雑かつ複合的な収益モデルの確立、エンティティや取引/交流を増やすことによるプラットフォームの拡大などを取り扱っていきます。

 

(ステージ4)成長戦略の策定と実行

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※14:利用者が増えれば増えるほど、ネットワーク(プラットフォーム)の価値が高まり、利用者にとっての便益が増すことを意味します。
※15:1つ追加で価値あるものを生成し、市場に提供するためにかかるコストが限りなくゼロに近づくことを意味します。
※16:プラットフォームの普及が指数関数的に伸び上がる分岐点を意味します。
※17:プラットフォームに参加するエンティティの供給サイド(価値の生産者)と需要サイド(価値の消費者)のうち、どちらから増やしていけばよいか、どのようにバランスを取るべきかといった問題を意味します。

次回は、事業機会の探索ステージにおいて重要な概念、エコシステムの詳細(どのようなエコシステムがあるのか、エコシステムの市場規模はどれくらいか、繁栄するエコシステムが満たすべき条件とは何か、デジタル経済におけるエコシステムの特徴は何かなど…)に関して触れていく予定です。

 

筆者:白井和康
ビジネスイノベーションハブ株式会社代表取締役。大手システムインテグレーター、コンサルティングファームを経て、2014年11月にビジネスイノベーションハブを設⽴。ビジネスモデルのイノベーションに関するコンサルティング、プロジェクト支援を手掛ける。㈱ガイアックスのパートナーとして、プラットフォームサービスのビジネス戦略ノウハウを1日で習得できるワークショップ を定期開催。

「ビジネスアーキテクト養成講座」
https://bizzine.jp/article/corner/13
「事業企画の現場で使うツール」
https://bizzine.jp/article/corner/52
「顧客のジョブを商品開発や事業開発に使うためのノウハウ」
https://bizzine.jp/special/jobs_to_be_done

主な寄稿記事

  • PMI⽇本フォーラム2018(ジョブ理論によるイノベーションプロジェクト)
  • ⽇経ものづくりセミナー(知財ビジネスモデル)
  • 翔泳社/⽇⽴Business Book Academy(ビジョンとミッションの作り方)
  • ビジネスモデルイノベーション協会(ビジネスモデルオリンピア2016)

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