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【第12回】収益モデルの確立&取引/交流とサイドの拡大

前回は、プラットフォーム指向のビジネスモデルデザインの最後のステージである成長戦略の策定と実行(図1)における2つのテーマ、クリティカルマスの獲得およびガバナンスモデルの構築(プラットフォームに参加するエンティティの量と質)について説明しました。本連載の最終回となる今回は、残りの2つのテーマ、収益モデルの確立、取引/交流とサイドの拡大について概説していきましょう。前回もお話ししましたが、これらの4つのテーマは各々独立しているというよりも、相互に関連していることに注意を払う必要があります。では最初に、収益モデルの確立から見ていきましょう。

図1:プラットフォーム指向のビジネスモデルデザインの4つのステージ

収益モデルの確立

収益モデルとは、特定のビジネスにおいて収益を得るための仕組みや構造を意味します。大雑把にいえば、パイプライン指向のビジネスモデルにおいては、ターゲットとする顧客に販売したプロダクトやサービスの売上から、そのプロダクトやサービスの生成や販売に要したコストを差し引いたものが利益であり、そのプライシングは需要と供給を考慮しながら決定されます。一方で、プラットフォーム指向のビジネスモデルにおける収益モデルはより複合的な要素を考慮しながら確立していかなければなりません。これは、収益の流れとプライシングに関する以下の4つの質問に対する回答を用意することを意味します(図2)。

●何に対して課金するのか?(収益の流れ)
●誰に対して課金するのか?(収益の流れ)
●誰がプライシングするのか?(プライシング)
●どのようにプライシングするのか?(プライシング)

図2:収益モデルに関する4つの質問

まずは収益の流れ、つまり「何に対して課金するのか?」「誰に対して課金するのか?」に関して考えていきましょう。「何に対して課金するのか?」は、アクセス、手数料、プレミアムという3つの基本的なタイプに分類して考えると便利です(図3)。1つ目のアクセスとは、生産者や消費者がプラットフォームに参加したり、プロダクトやサービスのリストを生産者がプラットフォーム上に掲載したりすることに対して課金するものです。前者は会員費用、後者はリスティング費用などと呼ばれることがあります。2つ目の取引手数料とは、生産者と消費者の間において実際に取引が行われ、金銭の支払いが発生する際に、その一部を片方のサイドまたは双方のサイドに対して課金するものです。これは、取引/仲介手数料またはコミッションなどと呼ばれることがあります。3つ目のプレミアムサービスとは、その名の通りオプションとしてのプラットフォーム所有者によるプレミアムサービスや追加/拡張機能の提供に対して課金するものです。プラットフォーム所有者が提供する基本的なサービスや機能が無料の場合、これらはフリーミアムと呼ばれることがあります。

クレジットカード会社の収益の流れを取り上げてみましょう。一般的に、クレジットカード会社はカード保有者(消費者)から年会費を徴収します(年会費が無料の場合もあります)。また、キャッシングや分割/リボ払い、傷害保険/盗難保険といった付帯保険(保険会社がパートナー)、空港でのラウンジサービス(エアラインがパートナー)といったプレミアムサービスをカード保有者にプレミアムサービスとして提供していることがあります。一方、加盟店(生産者)からはカード保有者が加盟店でカードを使った利用金額に対して手数料を徴収します。さらに、広告やプロモーション支援といったプレミアムサービスも加盟店に対して提供している場合もあるでしょう。

図3:3つの基本的な収益の流れ

「誰に対して課金するのか?」を検討する際、プラットフォーム特有の助成サイド(ロスリーダーサイド)とマネーサイド(利益獲得サイド)というコンセプトを理解することは重要です(図4)。助成サイドとは、特定のサイドの参加者に課金する金額がプラットフォームの維持コストを下回ったり、まったく課金しなかったり、場合によっては金銭的な報酬さえも与えるサイドを意味します。端的にいえば赤字のサイドです。一方、マネーサイドとは、もう一方のサイドの参加者に対して多くを課金することによって助成サイドの赤字を補填するサイドを意味します。つまり、トータルでの収支が黒字になれば良いという発想です。

例えば、フェイスブックやユーチューブのようなソーシャルネットワークの場合、利用者(生産者と消費者の双方)には課金せずに、クリティカルマス獲得後に広告主という新しいサイドを加えることによって、広告収入という収益モデルを最初に確立しているケースが多くみられます。一般的には、サイド間(プラットフォームに参加するエンティティ間)の取引において金銭の支払いが内在化している場合、その一部を生産者サイドから手数料やコミッションとして課金するケースが多いでしょう。このケースにおいては、消費者サイドが助成サイドとなる傾向にあります(エアビーアンドビーで‎はホストとゲストの双方に対してコミッションを課している稀なケースです)。

図4:助成サイドとマネーサイド

現行のパイプラインにプラットフォームを加えるハイブリッド型ビジネスモデルに対して、この助成サイドとマネーサイドというコンセプトを応用できます。アップル社の場合、iPhoneはパイプライン(中核となるプロダクトの製造と販売)であり、iOSはプラットフォーム(補完プロダクトとしてのアプリやコンテンツの仲介)ですが、同社の財務諸表を見ると売上や利益の大半はiPhoneをはじめとするプロダクトの販売によるものです(※1)。これは、パイプラインをマネーサイド、プラットフォームを助成サイドとして捉えることができます。つまりは、iOSプラットフォームへの参加者が増えれば増えるほどiPhoneが多く売れ、iPhoneが売れれば売れるほどiOSプラットフォームへの参加者がさらに増えるという自己強化ループを生み出しているのです(図5)。プラットフォームが多くの利益を生むことがなくても(極端に言えば赤字でも)、現在のプロダクトやサービスからの売上や利益が増大すればよしという割り切った考え方もできるわけです。

図5:プラットフォームとパイプラインの自己強化ループ

次にはプライシング、「誰がプライシングするのか?」「どのようにプライシングするのか?」に関して考えていきましょう。ここで取り上げるプライシングの対象とは、生産者が提供するプロダクトやサービスに関するものです。分かりやすいサンプルとして、ウーバーとエアビーアンドビーの相違に着目しながら説明していきましょう。

「誰がプライシングするのか?」に関しては、一般的には生産者です。ただし、生産者によって提供されるプロダクトやサービスがほぼ標準化(またはコモディティ化)されている場合、プラットフォーム所有者がプライシングすることがあります。ウーバーの場合がこれに当たります。一方、エアビーアンドビーの場合、提供されるスペースは標準化されていないため(または差別化されているため)、サービスの料金はホスト(生産者)がプライシングしています。また、ヤフオクのようなオークション形式によるマーケットプレイスにおいては、プライシング(購入意思のある価格)は買い手(消費者)が最終的に決めることになります。

「どのようにプライシングするのか?」(プライシングメカニズムと呼ばれることがあります)に関しては、固定価格、差別価格、市場価格に分類できます。1つ目の固定価格には、メニュー/リストプライス、サブスクリプション、定額制や従量制などが含まれます。2つ目の差別価格には、取引数量や取引回数によるディスカウント、性別や年齢などの人口動態特性によるプライシングが含まれます。3つ目の市場価格とは、需要と供給の力関係、または個別交渉によって価格が決まるものが含まれます。エアビーアンドビーは固定価格を採用しているのに対し、ウーバーは利用者の需要に応じてリアルタイムで料金を変動させる市場価格を採用しています(※2)。

収益の流れとプライシングに関する以下の4つの質問に対する回答は、プラットフォームの成長戦略ステージの各々のフェーズにおける戦略目的によって組み合わられます。例えば、クリティカルマスを獲得するために、プラットフォームに対するアクセス(参加コスト)に対しては課金しないというプライシング戦術が考えられるでしょう。一方で、プラットフォームの参加者間での取引/交流を活性化するためには、別のプライシング戦術を検討しなければなりません。また、マーケットプレイスのようなプラットフォームの場合、販売対象となるプロダクトやサービスの品質を高めるために、あえて少額のリスティング費用を徴収するという場合もあるでしょう(図6)。

図6:戦略目的と収益モデルのレバー

収益モデルを検討していく上で必要とされる要素(収益に関する要素とコストに関する要素に分けられる)を議論する際、収益モデルキャンバスのようなツールを活用するとよいでしょう。(図7)(※3)。

図7:収益モデルキャンバス

(※1)同社は近年、プラットフォームを含むサービスへのシフトを進めているものの、iPhoneをはじめとするプロダクトの売上は全売上の90%近くを占めています。
(※2)これは、サージプライシング(急騰料金)と呼ばれることがあります。
(※3)プラットフォームイノベーションキット(https://platforminnovationkit.com/)を参考にしています。

取引/交流とサイドの拡大

最後に、成長戦略の策定と実行ステージにおける4つ目のテーマである取引/交流とサイドの拡大について触れていきます。取引/交流の拡大とは、プラットフォームにおける中核的な取引/交流に新しい二次的な取引/交流を重層的に加えることを意味します。例えば、ウーバーやリフトが2015年にスタートした相乗りサービス「ウーバープール」「リフトライン」がこれに相当します。一方、サイドの拡大とは、プラットフォームに新たなエンティティの参加を募ることで、従来とは異なる交流/取引を加えることを意味します。前述したソーシャルネットワークにおける広告主という新しいエンティティの参加を募る場合がこれに相当します。以前にも紹介しましたが、現在のフェイスブックにおいては6つのサイドが存在しています(図8)。

図8:フェイスブックの6サイドプラットフォーム

取引/交流とサイドの拡大は、プラットフォームの価値提案や収益モデルの向上、成長の加速や競合に対する優位性の強化といった大きなメリットをプラットフォーム所有者にもたらしてくれます。リンクトインの場合、プレミアム会員、広告、採用ソリューションという3つの大きな柱から構成されている収益モデルを現在確立しています(図9)。クックパッドも同様に、プレミアム会員、広告、販売促進サービスという3つのバランスの取れた収益モデルを確立しています。

一方、取引/交流とサイドの拡大は、これまで築いてきた正のネットワーク効果を負のネットワーク効果にしてしまうリスクを回避しなければなりません。例えば、ソーシャルネットワーク内で頻繁に表示される広告は、特定の利用者(消費者)に不快感を与えるかもしれません。ウーバーが新たに提供したウーバーイーツは、従来のドライバー(生産者)に対して従来とは全く異なる経験を求めるものであり、物流にも大きな影響を及ぼすことが想定されました。同社は、ドライバーを2つの異なるエンティティ(乗客と配達)として管理することによってこのリスクを回避することができました(※4)。このケースにおいては、取引/交流の拡大というよりも、新たなサイドの拡大とみなすことができます。

図9:リンクトインの収益モデル

成長戦略の策定と実行ステージを複数のフェーズに分けて、クリティカルマスの獲得、ガバナンスモデルの構築、収益モデルの確立、取引/交流とサイドの拡大に関するフェーズごとの戦術や施策のシナリオを検討することが重要となってくるでしょう(図10)。

図10:成長戦略キャンバス

(※4)「プラットフォーマー」(日本経済新聞出版社)を参考にしております。

「プラットフォームビジネスモデル入門&実践~プロダクトのデザインから関係性のデザインへ~」というタイトルで、12回にわたって原稿を連載してきました。全世界に現在あるヒト、モノ、カネ、チエといったリソースを効率的かつ有効的に結び付けるプラットフォーム指向のビジネスモデルは、21世紀最強かつ最良のビジネスモデルであると思います。説明が不十分または分かりづらいところもあったかもしれませんが、現在プラットフォーム指向のビジネスモデルを立ち上げている皆様、これから立ち上げようとしている皆様に対して少しでも役に立てば幸いです。また、連載の中核である「プラットフォーム戦略デザイン」に関しては、ワークショップのファシリテーションサービスも提供しておりますので、気軽にお声かけ下さい。


筆者:白井和康
ビジネスイノベーションハブ株式会社代表取締役。大手システムインテグレーター、コンサルティングファームを経て、2014年11月にビジネスイノベーションハブを設⽴。ビジネスモデルのイノベーションに関するコンサルティング、プロジェクト支援を手掛ける。㈱ガイアックスのパートナーとして、プラットフォームサービスのビジネス戦略ノウハウを1日で習得できるワークショップ を定期開催。

「ビジネスアーキテクト養成講座」
https://bizzine.jp/article/corner/13
「事業企画の現場で使うツール」
https://bizzine.jp/article/corner/52
「顧客のジョブを商品開発や事業開発に使うためのノウハウ」
https://bizzine.jp/special/jobs_to_be_done

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    • PMI⽇本フォーラム2018(ジョブ理論によるイノベーションプロジェクト)
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