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WeWork」は、コワーキングスペースを提供するNY発のスタートアップ企業です。シェアリングエコノミーサービスとして、ライドシェアのUberや民泊仲介サービスAirbnbなどと並んで台頭してきたWeWorkは、2017年3月にソフトバンクが多額の投資を行ったというニュースが出たことでも話題になっています。今やスタートアップ企業や個人のみならず、大企業からも大いに注目を集めているWeWork。日本ではフリーランスや一部の業種の人のものという印象が強いコワーキングスペースがなぜここまで話題を集めるのか、その魅力に迫ります。

※編集部注:

2018年10月31日に加筆修正しました。
2017年12月26日に加筆修正しました。

2017年9月15日に加筆修正しました。

2017年8月10日に加筆修正しました。

目次

  1. コワーキングスペース「WeWork」とは
  2. 人々を惹きつける「WeWork」の魅力
  3. 企業としてのWeWork
  4. 日本国内におけるWeWorkの動向
  5. まとめ

1.コワーキングスペース「WeWork」とは 

世界中に展開するコワーキングスペース

https://www.wework.com

2010年にNYで創業し、現在アメリカをはじめカナダ、オーストラリア、イギリス、中国、韓国、インドなど約50都市に150ヵ所を超えるコワーキングスペースを展開するWeWork。利用者は世界中でおよそ26万人となっています(2018年10月時点)。創業当初はフリーランスやスタートアップ企業などをターゲットにしていましたが、現在ではMicrosoftと提携するなど大企業からも注目されていて、利用者約26万人のうち22%は、DellやマッキンゼーなどFortune 500掲載企業の社員が占めています。

WeWorkのビジネスモデル

WeWorkの仕組みは、不動産を借り受けてコワーキングスペース・シェアオフィスとして必要な設備をそろえ、ユーザーに貸し出すといういたってシンプルなものです。ユーザーは月額料金を支払うほか、会議室利用などオプション的な利用には追加料金を支払います。

2018年10月時点で、公式サイトには6つの料金プランが掲載されています。いずれも1ヵ月単位で契約できます。

オンデマンドプラン

フリーランスや出張者など月7日以下の利用者向けのオンデマンドWeメンバーシッププランには、月45ドルでワークスペースや会議室の予約に必要なクレジットが2クレジットついてきます。クレジットは1クレジット25 ドルで追加購入も可能で、ワークスペースの利用は1日50 ドル、会議室は時間あたり25 ドル~などの費用が別にかかります。

シェアードワークスペースプラン

リモートワーカーなどの、1つの拠点をより頻繁に利用する人向けには、選択した拠点のオープンデスクエリアにいつでもアクセスできるプランが月190 ドルから用意されています。

スタートアップや小規模な企業向けの専用デスクプランは月310 ドル~、固定席なのでキャビネット等も利用できます。いつも同じ場所で仕事をすることで、周囲のワーカーとのコラボレーションが生まれることも狙っているようです。

プライベートオフィスプラン

大企業の出張所としての利用など、さらにヘビーな利用者向けにはプライベートオフィスが持てるプランもあります。月450 ドル~でセキュリティも守られ固定電話も引くことができるので、より通常のオフィスに近いかたちで利用できます。

また、完全にワークスペースをカスタマイズできるカスタム・ビルドアウトプランもあります。もちろん事前の相談は必要ですが、専用スペースをショールームにしたり、フロア全体をレコーディングスタジオにしたいなどのニーズにも対応が可能です。

コワーキングスペースとしての必要な要素、洗練されたワークスペースや会議室、安定したインターネット環境、プリンター、コーヒーなどはもちろん揃っているほか、別途料金はかかりますが、どのプランでも登録した拠点以外のWeWorkのワークスペースを利用することができます。ドロップインでの利用や一つの拠点のみでの利用と考えると若干高めな印象ですが、世界中にちょっと立ち寄って仕事ができる場所が持てると考えるとリーズナブルだともいえます。

シェアリングエコノミーとWeWork

冒頭で、WeWorkをシェアリングエコノミーの流れで台頭してきたと紹介していますが、UberやAirbnbのようなCtoC要素もなく、「オフィスを又貸ししているだけのコワーキングスペースなのになぜシェアリングエコノミーなの?」と思った方もいるかもしれません。

WeWorkは、一見シェアリングエコノミーとは捉えづらいですが、彼らが活用した遊休資産は「法人向け不動産」だと言えます。そのままでは借り手が付きづらかったオフィスビルの広いワンフロア(=遊休資産)を借り受け、小分けにして売り出すことによって、ユーザーは不動産を所有もしくは長期契約することなく利用できるようになったのです。

コワーキングスペースという形で色々な場所にオフィスを開設し多くのワーカーとシェアするという点で、ワークスペースのシェアリングエコノミーと捉えられます。

また、専用SNSを通じてユーザー同士がゆるやかにつながり、ワークスペースのみならずスキルや情報をもシェアするという点も、シェアリングエコノミーの思想に近いものを感じます。

 

2.人々を惹きつける「WeWork」の魅力

ユーザー同士のつながりを促す仕掛け

WeWorkが人気を集める理由の一つとして、利用者間のつながりを積極的に生み出す様々な仕掛けが挙げられます。日常的に同じ空間で仕事をすることによるコラボレーションが生まれやすい環境づくりに加え、専用SNSを通してメンバー同士が気軽につながれるようにしたり、アフター5の交流イベントが盛んに開かれたりなどの工夫がされています。イベントはどのオフィスでも週に10〜15という驚くべき数が開かれていて、仕事に直結する勉強会的なものから、リラックスやウェルネス志向のもの、メンバー同士が純粋に交流するためのイベントまで様々です。

さらにWeWorkが同種のサービスと一線を画する特徴として「コミュニティ・マネージャー」の存在があります。各拠点にいるマネージャーは人材探しの手助けや相談への対応、イベントの企画などを行い、利用者間のつながりの強化に重要な役割を果たしています。例えばラウンジスペースでは、周辺地域にオープンした新しいお店やプロモーション中の食料品などの試食イベントが頻繁に行われています。他にもWeWork Berkeleyでは、同じビルに入居している会計士や移民弁護士が相談に乗るイベントを開催したり、UXやAIの企業が勉強会を主催したりと、実務につながるイベントも実施。瞑想トレーナーが集中力を高めるためのメディテーションレッスンなども人気です。

こういったイベントやコラボレーションを通じて、個別の閉じられたオフィスで仕事をするよりもスキルや情報がシェアされやすく、人のつながりも獲得できるのです。

また、キッチンを含めたドリンクスペースはとても広く作られており、さまざまなドリンクを無料で楽しめるようになっています。例をあげると、仕事場には欠かせないコーヒーはドリップコーヒーだけでなく、ハンドミル・ドリッパーもあるため自分の好きな豆を持ち込んで淹れることもできます。また、ミルク、日替わりのフルーツウォーター、そしてなんと自分でグラスに注いで楽しめる生ビールまで用意されています。このキッチンスペースは息抜きの場であると同時にメンバー同士の交流の場にもなっています。

世界に広がるネットワークへのアクセス

WeWorkの拠点は今や世界中にあるため、サービス専用のSNSといってもそこに参加するメンバーの広がりは世界規模。例えばほかの都市への進出を考えている企業が現地の情報を尋ねたり、現地のワーカーとの協働を模索したりといったことも可能になります。ビジネスユースのSNSとしてはLinkedInが有名ですが、WeWorkは物理的な空間とセットになっているため、求める相手が身近に見つかり、よりリアルなコミュニケーションが生まれやすいことも魅力の1つとなっているようです。また、グローバルなWeWorkコミュニティの一員になることで、世界中のWeWorkメンバーとつながることも簡単にできます。例えばニューヨークのメンバーがサンフランシスコでプログラマーを探す、ベルリンのメンバーがアプリを韓国語訳できるメンバーをソウルで募集するなど、求人や仕事の受発注が活発に行われています。

新しい働き方とのリンク

最近日本でも非正規労働人口や組織に属さないフリーランスが増加し、従来の企業での働き方が変革にさらされています。その影響は大企業にも及んでおり、業務が社内だけで完結することは難しい時代となっています。

かつては立派なビルに大きなオフィスを構える会社を持ち、ステータスとして高級車に乗ることが仕事や人生の成功の象徴でした。ですが現在は、物質的な豊かさよりも経験や精神的な豊かさを求めるようになってきています。どう生きるのか、どうすれば自分らしくあるのかが重要になってきている時代の中、WeWorkはオフィスに必要な設備を共有することで、リーズナブルな価格で満足度の高いサービスを受けたいというニーズにぴったりと当てはまっています。

すでにMicrosoftはWeWorkとのパートナーシップを発表していますが、Microsoftの一部社員がWeWorkの各拠点を柔軟に移動しながら仕事をするほか、WeWorkのコミュニティ内で新しい製品やサービスのテストを行うことなども計画されています。

例えば、企業のクリエイティブ関連などフリーランスとともに仕事をすることの多い部署がWeWorkにオフィスを持ち、刺激を受けやすくコミュニケーションのとりやすい環境で仕事をしたり、郊外にオフィスを構える企業が都市部の出張所として使うことで移動時間を短縮したりといったメリットは、十分想定できるでしょう。また社外の人とつながりを持ち積極的に交流していくことは、自社のサービスをより良くしていくために欠かせません。

 

3. 企業としてのWeWork

WeWork創業の経緯

WeWork創業のきっかけになったものは、当時ニューヨークで小規模な子ども服の会社を経営していた創業者のアダムの「賃料が高い」という悩みでした。少人数や小規模の企業に合ったサイズのオフィスがなく、賃料が高いオフィスしか選択肢がないという悩みを抱えていたのです。

当時アダムと同じオフィスビルに入居していた創業者で建築設計士のミゲルは、アダムの悩みを聞いて新しいアイディアを思いつきました。ビルのフロアを丸ごと貸し切り、さらに、小さな区画に分けて、フリーランスや零細事業者に向けて貸し出そうというアイディアです。

このアイディアはGreen Deskとして事業化され、金融危機で個人事業主が増えたことが後押しになり、すぐに軌道に乗りました。ニューヨークにさらに7つの支店をオープンさせたのです。

シェアオフィスの市場がさらに拡大していくことを見込んだ2人は事業を拡大するため、2010年にWeWorkを新たに設立し今に至ります。

「ただ生きるためではなく、豊かな人生を送るために働ける世界を創造する」をミッションに掲げているWeWorkは、小規模企業や個人事業主が「個人」として参加しながらも、より大きな「we」の仲間になれる場を作っています。自身の事業の収益だけでなく、コミュニティやネットワークを広げることで、個人の人生をより豊かさにするサポートしているのです。

WeWorkの企業価値

一見、「ただのレンタルオフィス、シェアオフィス事業をやっている会社と同じじゃない?」と思ってしまうWeWorkですが、実際はただの「賃貸業者」ではありません。テクノロジーを駆使してオフィス空間を最適化し、空間の利用効率を挙げる企業努力はさながらテック企業。そういった彼らの特徴が、WeWorkをブランド化させ、投資家の期待をも高めています。

WeWorkの評価額は、2014年には50億ドル2016年では160億ドル(約1兆7,000億円)2017年に200億ドル(約2.3兆円)に達しました。また、2017年は、総額7億6000万ドル(約860億円)を調達しており、建築事務所やシンガポールのコワーキングスペースを買収する、ラテン・アメリカ、アジア、オーストラリア、ヨーロッパにイスラエル等、世界各地に拠点を拡大させるなど、破竹の勢いを見せています。

さらに、日本からは、ソフトバンクが2017年2月に総額30億ドル、8月に44億ドルを出資しました。これにより日本やアジアの拠点がさらに増えることが予想されます。

WeWorkの競合企業

順風満帆に成長し、かなりのブランド優位性を築いているようにも思えるWeWorkですが、レンタルオフィス、シェアオフィスは、世界各国どこでも存在するビジネス。そのため、WeWorkの競合はたくさんあり、そのビジネスモデルも簡単に模倣できてしまうといえます。

例えばRegus(リージャス)は、シェアオフィスをグローバル展開しているWeWorkの競合サービスです。世界120か国、3000拠点を持っており、WeWorkの15か国以上、155拠点に比べると大きな差があります。また、アメリカでは、Workbarがボストンを中心に台頭しています。WORKBARもWeWorkと同様に、企業会員を持ち、イベントを開催しユーザーを結びつける役割を担っています。

コミュニティや、テクノロジーを駆使したデザイン性が高く快適なオフィス、ブランド力で差別化しているWeWorkですが、模倣しやすくニーズが高いサービスであるため、これから競争が激化していく可能性も高いでしょう。

WeWorkはその他にも、今後5年間で1500人もの難民を雇用するWeWork Community Refugee Hiring Commitmentをこの11月14日に発表しました。この取り組みはWeWorkにとどまらず、同社のコワーキングスペース会員となっている世界中の企業や個人事業種に対しても参加を呼び掛けており、WeWork外でも今後5年間での1500人の雇用を目指しているため、WeWorkコミュニティ全体で3000人分の雇用を生み出すことを目標としています。

今後はリテール事業に進出

WeWorkはさらにメンバー向けのリテール事業「WeMRKT」の進出へ向けて試験営業を開始しています。「Honesty Market」という無人の販売スペースがWeWork内にありますが、今後はコミュニティ精神をベースとした小売りブランドを構築し、コワーキングスペースで働く人のニーズに合った商品の販売を目指します。

販売する商品はメンバー企業が開発、コワーキングに共感する企業が商品を購入するので、スタートアップ企業の商品やブランドにとって初期の売上、マーケティングや流通のテストチャネルの場としても活用できます。

すでに店舗に出品するための商品のプレゼンも行われ、瓶入りのガスパッチョや天然水、中身に合わせてサイズが変わる財布など、コワーキングを向上させるために企画された10社の製品が検討されています。

WeMRKTは、ニューヨークにあるWeWorkに1箇所目の店舗をオープンした後、3店舗を出店しています。今後2年間で500店以上を開店する計画で、eコマースストアの展開も予定しています。

 

4. 日本国内におけるWeWorkの動向

2017年3月:ソフトバンクが3億ドルを出資

2017年3月のロイター通信のニュースでは、ソフトバンクグループがWeWorkに3億ドル出資し、出資は今後も継続され総額30億ドルに達する見通しだと報じられています。また2014年12月には50億ドルだった評価額が2016年春には160億ドルに達し、ソフトバンクの出資によってさらに企業価値が200億ドル以上に引き上がることが予測されています。

2017年7月:ソフトバンクとWeWorkが合弁会社WeWork Japanを設立

3月の出資のニュースに続き、今年7月、ソフトバンクグループとWeWorkが50%ずつ出資し合弁会社を設立することが発表されました。Chris Hill氏が最高経営責任者に就任し、2018年初めに東京のコワーキングオフィス開設を目指し準備を進めているようです。前述のように、日本版ウェブサイトが整備されつつあることも期待感を高めています。

2018年初頭のオープンが発表されているのは「六本木アークヒルズ」、「GINZA SIX」、「新橋」の3か所。最高経営責任者であるクリス・ヒル氏は、9月より東京に赴任しており、日本人の視点からビジネスモデルを組み立てられるチームの結成。さらに、東京のWeWorkコミュニティは早期に500~1000人を超えると予想しており、今後は需要に合わせてまずは2018年初頭に1つめの拠点を、その1か月以内に2つめの拠点、その後間を置かずに合計5つの拠点を追加した上で、今後の展開を考えていくようです。また既にKDDI、みずほ証券、そして日経新聞などの名だたる企業がメンバーとして名を連ねており、WeWorkにデスクスペースを持つことが決まっています。

2018年2月:初拠点オープン

WeWorkは2018年2月に国内初拠点をオープンし、現在の銀座、新橋、六本木、丸の内の4拠点に加え、7月には日比谷、8月には神宮前に、さらに横浜、福岡、大阪にも近日開設を予定しています。

企業の規模や業種を超えた出会いの場としての活躍がWeWorkに期待されていますが、利用者同士のコミュニケーションを促進させるためにいくつかの仕組みを整えています。その仕組みの一つがWeWork版のSNSとも言えるモバイルアプリケーションです。拠点やコワーキングスペースのフロアが違ってもタイムラインを通じてお互いの存在を知り、コミュニケーションのきっかけとなります。

また、コミュニティチームごとにイベントを企画、他のコミュニティとつながる仕組みを整えています。8月にオープンした神宮前のオフィスには地上階にカフェスペースやイベントスペースも用意しています。この場所が東京の起業家たちの中心となり、利用者同士を結びつけるハブとしての役割を果たすことも大いに期待されています。

国内の入居企業やコミュニティについて

一般的なコワーキングスペースでは個々が作業をする場所という感覚ですが、WeWorkでは個々や違う企業で働く人たちとコミュニケーションをとることで、新たなコミュニティや、これまでになかった発想が生まれる可能性のある場所と捉えられています。

WeWorkの特徴であるガラス張りのオフィスは他者に対してオープンになれる理由の一つです。大きな組織の中で過ごしていると、社外の人とのつながりを日常的に持つことは簡単ではありません。いつものオフィスから一歩外に出て自社や自分の仕事を客観的な視点で見直すこともできる環境では、オープンな考えが浸透し、新しいアイディアが生まれるきっかけにもなるでしょう。

WeWorkには大企業も入居しています。六本木アークヒルズサウスタワーのオフィスにはヤフー、丸の内北口には伊藤園やJTBが入っており、日比谷パークフロントにはソフトバンクが約1,000人規模で利用をしています。

例えば、丸紅はGinza Sixに入居し、WeWorkを外部との接点の場としてイノベーション施策に取り組んでいます。また丸の内北口に拠点を持つ川崎重工は、WeWork内で開催するイベントを社外の人との交流の場として、新たな可能性を見出しています。挨拶から始まり、これまでのビジネスの場では出会うことのなかった人々との友好が生まれ、そこから新しいビジネスチャンスにつなげる可能性も視野にいれています。

 

5.まとめ

WeWorkのミッションには、“To Create a world where people work to make a life, not just a living“と書かれています。これは「人々が単に生計を立てるために働くのではなく、自らの人生をつくるために働く場所へと世界を変える」というような意味ですが、ここでは仕事が「人生を豊かにするためのもの」として捉えられていることが伺えます。

人生を豊かにするために、世界中の人とつながり、自信のスキルを充実させ、柔軟に場所を変えながら仕事をするスタイルが今後ますます一般的になっていくのかもしれません。このような流れの中、WeWorkのような業態は今後ますます成長していくでしょう。

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