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自社で印刷機を保有することなく、多数の印刷会社と提携し“仮想の印刷工場”を持つラクスルのシェアリングエコノミーは、デジタル化で需要の低下が懸念される印刷業界に変革をもたらしています。

基本の印刷サービスに加えニーズに沿った新しいサービスも開始、さらに配送業の領域にもシェアリングサービスの「ハコベル」を展開しています。荷主と運送業者をマッチングさせるBtoBプラットフォームはネット印刷分野での経験が活かされるでしょう。巨額の資金調達に成功し、東京証券取引所マザーズに上場したラクスルの今後の動向が注目されています。

目次

  1. 印刷業界を変革するサービス「ラクスル」とは
    ・サービス概要について
    ・ニーズに沿った新サービスを展開
    ・マーケティングに忠実に
  2. ラクスルの事業経営について
    ・ハコベルについて
    ・資金調達や上場について
  3.  まとめ

1.印刷業界を変革するサービス「ラクスル」とは

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https://raksul.com/

印刷通販のラクスルは自社で印刷機を保有していませんが、全国の印刷会社と提携、ネットワーク化することで仮想の印刷工場を持っている状態だと言えます。

インターネット上で受注した印刷物を、提携する印刷会社の空いている設備を使い印刷するというビジネスモデルは、印刷業界のシェアリングエコノミーと言ってよいでしょう。この仕組みにより、名刺なら100枚で500円など、少ない部数の印刷でも品質を落とすことなく、安価に提供することが可能となります。

またラクスルの仮想の印刷工場として提携している印刷会社も大きなメリットを受けています。そもそも印刷業界は仕事の変動量が大きく、印刷機の平均稼働率は5~6割程度と言われています。

これまで大口の注文を中心としていた印刷会社は保有する印刷機の非稼働時間を活用することで、業務効率の向上と原材料にかかるコストを削減できます。さらに営業マンがいなくても受注できるラクスルの仕組みを利用すれば、営業コストの削減も可能となります。

これまで小ロットの印刷物などは社内の印刷やコピーで対応してきた中小企業は、手軽に低価格で本格的な印刷物を仕上げることが可能となり、結果として印刷市場に新たな需要も創出しています。

BtoB事業においてこれまでになかった取り組みで、ラクスルは印刷業界に変革をもたらしていると言えるでしょう。

ニーズに沿った新サービスを展開

印刷サービスを基本に、ラクスルでは新しく2つのサービスを展開しています。一つは無料で利用できる「オンラインデザインサービス」、そして新聞折込やポスティングチラシの印刷と配布をセットで注文可能な「集客支援サービス」です。

オンラインデザインサービス

豊富なテンプレートを利用し、ブラウザ上で名刺やチラシ、ハガキデータを作成、ラクスルへの印刷入稿まで、ワンストップで行うことができます。4,000点以上の無料のテンプレートを利用して簡単にデザインできるものから、無料で使えるPIXTAの写真やイラスト素材約2,000万点以上、モリサワフォント49種類を利用しオリジナルのデザインを作成することも可能です。

 集客支援サービス

地図からエリア、配布部数を指定して新聞にチラシを挟み配達する「新聞折込」、家や事務所のポストにチラシを届ける「ポスティング」、ピンポイントでチラシを郵送する「ダイレクトメール」と、目的や予算、ターゲットに応じた集客支援サービスを展開しています。

マーケティングに忠実に

良いサービス・商品の提供に加え、マーケティングに力を入れ他社との差別化を図ったことがラクスルの成長のカギを握っているとも言えるでしょう。

マーケティングの基本に3Cと4Pというフレームワークが使われますが、市場が変化しても、このフレームワークに立ち返り、基本に忠実であることがラクスルの戦略であると、ラクスルの取締役CMO田部正樹氏は語っています

3Cの第1のCは「Customer(市場、顧客)」です。ラクスルはテレビCMも積極的に展開していますが、登場人物はラクスルの顧客であり、見ている人が自分のこと(紙チラシを印刷して配る)としてイメージできる「リアリティ」を重視しています。

第2のCである「Company(自社)」については、PDCA(Plan-Do-Check-Action)を早く回すため、4人体制の小規模な組織を編成、KPIを各自に分解することでより早いPDCAサイクルを実現しています。

第3のCは「Competitor(競合)」です。差別化の難しい印刷物は、安さだけでは競合に勝つことができません。「誰でも簡単に印刷できる」という付加価値をつけることで、競合ひしめく中での自社の位置づけやブランディングを図っています。これに加え、4P「4P(Product、Price、Place、Promotion)」をベースにPDCAを回すことで、効果の高い施策、顧客から支持を得る施策の組み合わせを重視していると同氏は語っています。

 

2.ラクスルの事業経営について

ハコベルについて

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https://www.hacobell.com/

これまであまりシェアリングエコノミーになじみのなかった配送業の領域にもその流れが来ています。印刷事業と比べると規模は小さいですが、ラクスルは軽貨物のシェアリングサービスハコベルを展開しています。

荷主はパソコンやスマートフォンからトラックの手配をするとハコベルに登録している運送会社とつながり、より安く、早く、そして安心して配送案件を依頼することができます。そして最大の魅力はその料金の安さ。荷主と運送業者をオンラインで直接マッチングさせることで中間マージンをカット、双方にメリットのある構造を実現しています。

また運送業者は従来の仕事の合間にハコベルの仕事を受けることで空き時間を活用、効率よく仕事を請け負うことができます。

ネット印刷分野でBtoBプラットフォーム構築に成功した経験を活かし、ラクスルは配送業界でも類似のマーケティング戦略に基づき事業を展開しようと試みています。

資金調達や上場について

ラクスルは2015年2月に総額40億円、2016年8月には事業強化を目的に総額20.5億円と大型の資金調達に成功しています。印刷Eコマース事業の更なる拡張のための投資に加え、集客支援事業や物流事業ハコベルの成長を加速し、中長期的に事業の拡大を図るためとしています。

またラクスルは2018年5月31日、東京証券取引所マザーズに上場しました。同社が東京証券取引所に提出した新規上場のための有価証券報告書(Ⅰの部)によると国内の印刷EC市場規模は920億円程度とされる中、ラクスルはその市場を制している訳ではなく、最大のシェアを誇るプリントパック、グラフィックに次いで業界ではナンバースリーの位置づけです。さらに2017年度の業績は、売上高が76.7億円、経常利益は約11.6億円の赤字でした。新規上場の審査が厳しくなる中、赤字のまま上場したことには疑念の声もでています。

一方で、マーケティングによる顧客獲得の積み上げと、顧客生涯価値(LTV)の高い印刷サービスという特性から、現状は赤字でも将来的に粗利益率があがり黒字に転換できると指摘する声もあります。

 

3.まとめ

多額の広告宣伝費が負担となり2017年7月期は営業赤字となりましたが、印刷事業が安定的な成長軌道に乗ってきたためこれを縮小、2018年7月期には黒字に転換できると予想しています。ラクスルでは現在3台だけ自社で印刷機を所有しているとのことですが、今後大きな設備投資の予定はなく、本来のビジネスモデルである提携する印刷会社の空いている印刷機を活用することで利益を上げていくことができると考えています。

さらに運送業のハコベルが展開する国内物流は14兆円市場で、今後の成長が見込めるマーケットとの見解の中で、BtoBビジネスのプラットフォームとして急成長を続けているラクスルの今後が注目されています。

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