今や世界では日本よりもはるかにシェアリングエコノミーが拡大し、自動車を所有せずカーシェアやライドシェアを利用する人が増えています。
アメリカの個人間カーシェアサービス大手Getaroundは2019年4月、フランスの同業大手Drivyを買収したことを発表しました。Getaroundにはトヨタ自動車やソフトバンクも出資していることから、その期待の高さがうかがえます。
日本ではカーシェアといえば、タイムズカープラスなどカーシェア事業者から車を借りるサービスが一般的ですが、Getaroundのサービスのような個人間のライドシェアは法律の問題もありまだまだなじみがないのが現状です。今後日本でも同様のサービスが拡がっていくのでしょうか?日本でのカーシェア市場の展望についてみていきましょう。
目次
- GetaroundのDrivy買収について
・GetaroundとDrivyについて
・買収の概要や狙いとは - ソフトバンクやトヨタも出資
- 日本のカーシェアについて
- まとめ
1.GetaroundのDrivy買収について
GetaroundとDrivyについて
Getaroundは2009年にスタートしたカーシェアサービスのパイオニアで、全米140都市でサービスを展開しています。日本ではレンタカー業者から車を借りるBtoCサービスにとどまっているライドシェアですが、GetaroundやDrivyは車の貸し借りが個人間で行われるCtoCサービスです。
車を使いたい人がレンタカー窓口で並ぶことなく気軽に車を借りられ、また所有者が車を使わない空き時間を有効活用できるようにと誕生したのがGetaroundです。
車を借りたい人はまず、スマートフォンのアプリなどで近くの車を探しリクエストを送ります。リクエストを受けた所有者は利用者のプロフィールやレビューを見て貸し出しの判断ができます。開錠もスマートフォンでできるため鍵の受け渡しの煩わしさもありません。
車はただ持っているだけでも多額の維持費がかかりますが、空き時間に有償で貸し出すことで所有者の費用負担が軽減されます。車を持たない人も必要な時だけ気軽に車を利用することができますし、1時間5ドルから借りられ、保険も完備されています。
フランス・パリに本社を置き2010年にサービスを開始したDrivyも、同様の事業をフランス、ドイツ、スペイン、オーストリア、ベルギー、英国の170都市で展開し、利用者数は250万人にのぼります。
買収の概要や狙いとは
Getaroundは3億ドル(約335億円)でDrivyを買収し、拠点は欧州170都市に拡大します。互いの営業拠点を補い合うことで、300都市以上、利用者数500万人以上を抱える世界最大級のカーシェアリング企業が誕生することになります。
スマートフォンでの開錠技術など特許技術で先行してきたGetaroundですが、Drivyも同様の技術を導入しているため技術面での協力も期待でき、今後は「すべての車がシェアされる」というビジョンに向けてさらにサービスが拡大されるものと考えられます。
Getaroundのサム・ザイド創業者兼最高経営責任者(CEO)は、「Drivyは欧州のマーケットリーダーであり、Getaroundと同じビジョンを共有している」とし、Drivyのポーリン・ディメンソン創業者兼CEOもGetaroundを「理想的なパートナー」と言及しています。
カーシェアの拡がりは利用者にとって便利なだけではありません。使われない車が減ると、渋滞の緩和や路上駐車の減少で都市部の交通はスムーズになり二酸化炭素の排出量も削減し、環境にも良い影響が期待できます。
2.ソフトバンクやトヨタも出資
トヨタはGetaroundに約10億円の出資をすると発表しました。
アメリカではGMなど大手自動車メーカーがカーシェア事業と提携を進めており、トヨタも今後のアメリカでの事業展開を見据え、参入したものとみられます。アメリカでは車を貸すことで得られる収入を見込んで新車を購入する動きもあり、新たな需要喚起につながっているのです。
モルガンスタンレーの調査によると、自動運転車の普及は2022年には実現し、それ以降は自動運転が前提とされた社会になると予測されています。車を所有するという概念が薄くなるなか、カーシェア事業を通して新たなビジネスへの足掛かりにしたい考えです。
同じくソフトバンクも、孫正義会長兼社長が即決で300億円を出資したと報じられています。ソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)を立ち上げ、世界中のライドシェア事業者に出資する予定です。
欧州ではフィンランドを中心に、移動手段をひとつの大きなサービスととらえる「MaaS(Mobility as a Service)」が拡がりつつあり、2017年にはあいおいニッセイ同和損害保険とトヨタファイナンシャルサービス株式会社がWhimへの出資を発表しています。
関連記事:
世界初のMaaSプラットフォームアプリ「Whim」とは。サービス内容と今後の展開について
3.日本のカーシェアについて
矢野経済研究所の調査によると、日本のカーシェアの市場規模は2020年には295億円に達するとみられ、これは2014年比で倍の規模となります。
急成長の背景には、カーステーション数や車両数の充実で利用者の利便性が高まったこと、法人利用が増えたことがあります。
現在、日本で最も高いシェアを誇るのは駐車場運営のパーク24グループ会社が経営するタイムズカープラスで、2018年には会員数100万人を突破、カーステーション数や車両数においても圧倒的なシェアを誇っています。2017年には全都道府県への展開も実現し、今後もサービスが拡大していくでしょう。
他のカーシェア事業者も、オリックスカーシェアリングが駐車場シェアサービスの軒先パーキングと提携するなど提携の動きも広まっており、新規参入事業者も増えています。
カーシェアの拡大が新車購入に影響すると思われる自動車メーカーも、世界的にカーシェアとの共存路線に向かっており、国内でもトヨタをはじめ大手がカーシェア事業への参入を決めています。
今後さらにカーシェアに関するインフラの整備が進むと、利用者はより良いサービスを受けることができ、事業者側の採算向上にもつながります。今後も市場規模は拡大するとみられています。
関連記事:
【保存版】 急成長! カーシェアリングの基本と国内外の市場動向まとめ
4.まとめ
世界中で拡大するカーシェア市場、なかでも米欧大手の合併規模の大きさを考えると、法律の壁が立ちふさがる日本のカーシェアリングの現状は世界とかけ離れているようにも見えます。
Getaroundへの出資を即決した孫正義会長兼社長は日本のライドシェアの現状について「日本の進化を遅らせる」として強い危機感を抱いており、規制緩和の必要性を訴えています。シェアリングエコノミーの観点からも、いずれライドシェアは解禁の方向に動いていくのかもしれません。
従来のカーシェア業者以外にも新規参入する企業が増えており、その波は保険業界や金融業界にも及んでいます。今後のカーシェア市場の展開に注目が集まります。
関連カテゴリー