最近では特に都市部において、地域住民のつながりは希薄なものになっているのではないでしょうか。しかし、以前はご近所同士でちょっとしたモノの貸し借りなどは普通に行われている光景でした。
そのような気軽さをシェアリングエコノミーとして取り入れているのが、カナダのバンクーバーを中心に展開しているThingeryというサービスです。単なるモノのシェアサービスではなく、地域密着型の運営方法にも注目が集まっています。
今回は、シェアリングエコノミーを通じて地域コミュニティの活性化も目指すThingeryについて解説します。
目次
- まるで道具の図書館?バンクーバー発のThingeryとは
・Thingeryのサービス概要
・Thingeryと地域のコミュニティ
・Thingeryの今後の展望 - 日本での類似ビジネスは?
・ジモティ―
・Thingeryとのサービス比較
- まとめ
1.まるで道具の図書館?バンクーバー発のThingeryとは
Thingeryのサービス概要
Thingeryはカナダのバンクーバーを中心に展開する、モノのシェアサービスです。2017年にニューウエストミンスターでプロジェクトがスタートしました。
Thingeryが提供するのは、輸送コンテナを改良した倉庫の中に物品が収納してあり、会員はそれを自由に借りて使うことができるというサービスです。借りることができるのはスポーツ用品や子どものおもちゃ、工具、イベントグッズ、家電製品、楽器などさまざま。少額のレンタル料が別途発生する物もありますが、ほとんどは年会費を払えば無料で借りられます。
借りるときにはオンラインで予約し、付与されたアクセスコードで物品を借りるというシステムになっており、貸し出しから返却まですべてセルフサービスで運用されています。
運営にあたっては地元のコミュニティメンバーを中心とした協同組合を設立し、地方自治体や住民とも緊密な協力関係を結んでいます。Thingeryは自社のサービスを「モノの図書館」と位置付け、地域住民が気軽に利用できるサービスを目指しています。
Thingeryと地域のコミュニティ
Thingeryでは、単純にモノをシェアリングするだけのサービスにとどまらず、シェアリングエコノミーを通じて地域の結びつきを活性化する、という志を持っています。創業者であるクリス・ディプロック氏は、「自宅や地域を、持続可能性の責任を反映した活気あるスペースへと変えるツールやスキルは、コミュニティに力を与える」というコンセプトを掲げました。
貸し出される物品は寄付や共同購入などで供給され、近隣の協同組合が中心となってオーナーとなり、管理しています。
バンクーバーキッツィラノ地区のThingery協同組合の役員、ジュリア・ハルバート氏によると、「キッツィラノには工具やキャンプ用具を貸し出しているところはありません。そのため、大きなニーズがあります」ということです。さらに「キッツィラノには、バレーボールネットやキャンプストーブの収納スペースがない、小さなアパート住んでいる学生や若い世帯などの住人がいます」と言い、Thingeryのサービスがうまくニーズにマッチしている形です。
Thingeryの今後の展望
Thingeryは、2018年の初めにバンクーバー地区にも4カ所が開業予定となっています。
創業者のディプロック氏のもとには、すでにバンクーバー市外、とりわけ周辺の地方自治体やアルバータ州でThingeryの設立に興味がある人たちからの問い合わせを受けているとし、今後もさらにThingeryのサービスエリアを広めていきたい考えです。
さらに、グループの会員増加策の一環としてビーチの清掃を行うなど、Thingeryとその周辺地域で定期的なコミュニティプログラムの企画も進められています。
キッツィラノの協同組合の役員であり大学院で都市研究も行っているハルバート氏は、「数年後、キッツィラノのThingeryには500人のメンバーと素晴らしいコミュニティプログラムがあり、コミュニティグループとの強力なパートナーシップが存在しているようになれば嬉しく思います」 「一点に集中したシェアリングエコノミーを近隣に呼び戻す方法として、カナダ全体にコンセプトが広がる光景を思い描いています」と語っています。
2.日本での類似ビジネスは?
ジモティー
日本国内でThingeryと似たようなサービスとしては、ジモティーが挙げられます。
ジモティーは「地元の掲示板」をコンセプトに、物品の売買や求人募集、イベント告知など広範囲にわたる用途で使われています。以前は新聞の3行広告や地域のフリーペーパーに掲載していたような地域密着型の情報が掲載されているのが特徴です。
取引連絡は個人間のチャットで行い、物品の受け渡しや支払いなどは個人同士でやりとりをする必要があります。
ジモティーのようにさまざまな情報を地域ごとに一元化した掲示板はクラシファイドサービスと呼ばれ、一時期はメルカリアッテやClipなど似たようなサービスがリリースされました。どちらも既にサービスが終了していますが、ジモティーは2011年のサービス開始以来、月間利用者数は約750万人(2017年5月末)へと成長しており、テレビCMなどを通じて幅広い層に認知されています。
Thingeryとのサービス比較
利用方法について、Thingeryはシェアするモノをコンテナに集めて、そこにあるアイテムを複数のメンバー間で共有しますが、ジモティーでは主に譲渡や売買のためのやりとりを1対1でサイトを通じて行います。アイテムを入手するにも、Thingeryは借りたい人が自分でコンテナに借りに行くのに対し、ジモティーでは待ち合わせなどをして、ユーザー間でモノの受け渡しをする必要があります。
また、Thingeryのように借りられるモノのラインナップが事前に分からず、人気のモノは競争率が高かったり、タイミングによっては欲しいモノがなかったりということもあるでしょう。
しかしジモティーでやりとりされるのは家具や家電などの「モノ」にとどまらず、犬や猫の里親探し、習い事の生徒募集、ママ友グループのメンバー募集やアルバイト募集など、地元のさまざまな「情報」を掲示板に書き込むことができます。
また売ったり譲ったりするだけでなく、買いたい、譲ってほしい、手伝ってほしいという募集もすることが可能で、中には「一緒にかき氷を食べに行く人募集」「重い家具の移動を手伝って」というような、気軽な頼みごとのお願いにも使われています。フリマアプリのように不用品処分や節約の目的に使われるだけでなく、地域の人同士の新たな出会いや問題解決へつながるサービスとなっています。
コスト面をみると、Thingeryでは利用する際は最初に50ドルの終身会費を支払い、その後は29ドルの年会費がかかりますが、ジモティーでは登録料や手数料、掲載料などはすべて無料です。その代わり決済機能や補償などもないため、ユーザー自身がトラブル防止に努める必要があります。
このようにThingeryとジモティーとではサービスの形態が根本的に異なるものの、ジモティーの目指すところは「子供からお年寄りまで、誰もが使える地域社会のインフラとなるサービス」であり、地域の問題を地域の人同士で補い合える仕組み作りという点では、Thingeryのコンセプトとも近いものがあると言えるかもしれません。
3.まとめ
Thingeryは、シェアリングエコノミーの利便性と地域コミュニティの信頼性がほどよく組み合わさったシェアサービスではないでしょうか。運営に関わる協同組合の幹部も社会貢献意識が高く、地域のインフラとして成長しつつあるようです。コンテナに収納するというアナログ感も、逆に分かりやすさと安心感を与えているようにも見えます。
これをそのまま日本で実施するにはコンテナの置き場所や管理などに課題はありそうですが、災害や防犯の備えとしてご近所同士のつながりが見直されている今、日本でもこのような形のシェアサービスの需要が潜在しているかもしれません。
参考:
Shareable:In Vancouver, shipping containers are the new tool libraries