IT技術の発達により、有効活用されていない労働力や物、スペースを共有し、よりコストを抑えて活用していこうという動き「シェアリングエコノミー」がどんどん普及しています。
今このシェアリングエコノミーの流れは、国内外の農業にも波及しています。設備やスペースのシェアはもちろん、農業や里山暮らし体験をシェアするモデルや、農業を支える女性のアイディアを企業とシェアする革新的なモデルなど、既存のシェアリングエコノミーの枠を超えたプラットフォームが登場しているのです。
今回は、そういった農業関連のシェアリングエコノミー系サービスをまとめてご紹介します。
※編集部注:
2019年5月22日に加筆修正しました。
2018年6月15日に加筆修正しました。
目次
- 米農業界におけるシェアリングエコノミーの潮流
- 国内でも本格化が進む農業系シェアリング
・日本で話題の農業系シェアリングエコミーとは
・TABICAによる新しい取り組み
・ベジオベジコの本気の農業シェアとは
・ワクラクで1日単位の農業アルバイト
・増加する農場や里山のシェア - まとめ
1.米農業界におけるシェアリングエコノミーの潮流
「MachineryLink Sharing」とは
農作業の効率化を図るために農業機械の導入は不可欠ですが、使用頻度に対して購入費用が高く、農家にとっては購入費用の捻出とその初期投資の回収が大きな負担です。これは農業生産者の新規就農を難しくする原因のひとつでもあります。
そこでアメリカのMachineryLink Sharing(マシーナリーリンク・シェアリング)は、農業機械のPtoPのプラットフォームを立ち上げました。日本でもアメリカでも複数の生産者で農業機械を共有する取り組みは昔からありましたが、インターネットを利用することで、広範囲の生産者同士が農業機械を貸し借りできるようになります。
メリットと期待される効果とは
農業機械を近隣でシェアするだけでは、環境により作物の成長サイクルが重なることが多いため、時期的に活用に限界があります。しかしMachineryLink Sharingのサービスによって広い地域で貸し借りが可能になると、特定の作業に特化した農業機械も気候や土壌が違う地域で、より多くの生産者とのシェアすることができます。
農業機械の所有者はレンタル料を得られるので、初期投資回収のスピードが早まります。かつ、新規参入者も低コストで農業を始められるのです。
近年日本では農業の企業化、大規模化が進められており、農業機械の購入コストは高額化しているそうです。このようなPtoPプラットフォームも誕生していますが、まだまだ一般化はしていません。アメリカでサービスを始めたのは元々コンバインのリースをしていた企業ですが、日本では今後どんな企業が乗り出してくるか、注目が集まります。
2.国内でも本格化が進む農業系シェアリング
日本で話題の農業系シェアリングエコミーとは
日本国内では、田舎暮らし体験を都会の人にシェアするプラットフォーム「TABICA」や、農業従事者とシェフを結ぶ「SEND」などのサービスが生まれています。
「TABICA」は「地域の暮らしを旅する」をテーマとした、農業体験のシェアリングができるプラットフォームです。3,000円ほどのお手頃価格で、ホスト(農家の方)との交流を楽しみながら非日常的な体験をできます。
「SEND」は、全国の食物生産者と食材にこだわりたいシェフたちを結ぶ食材のプラットフォームであり、既存の流通網ではなかなか出回らない食材が手に入るなど、新しい食材の取り引きを実現しています。
そのほかに、都心を中心に農地を貸したい人と畑作業を楽しみたい人のための「シェア畑」や、畑で作物を生産しながら太陽光発電を行う「ソーラーシェアリング」という取り組みも始まっています。「ソーラーシェアリング」は、農業が魅力のある職業になるためには収入の確保が重要であるという考えのもと、農家の収益向上の方法として生まれたサービスです。
TABICAによる新しい取り組み
TABICAはもともと農業体験や里山の暮らしをシェアするプラットフォームですが、農林水産省主導の農業女子プロジェクトと協力し、「都会に住んでいるけれど農業に興味がある女性」と、「関東近郊で農業をしている女性」をつなぐ試みを始めました。片道1時間程度で行ける所で農業体験ができることによって、農業をしている女性の存在をもっと世の中に知ってもらい、農業を職業に選ぶことを身近に感じてもらおうというものです。
TABICAと農業女子プロジェクトの取り組みは、農業女子と農業志望女子が直接交流することで、農業を身近に感じたり、脱サラ経験者に相談したりと、実際に体験してもらうことで、あこがれを行動に移すためのサポートをしています。こういった活動により移住や2拠点居住を促進し、シェアリングエコノミーによって地方の活性化を目指しています。
TABICAの取り組みに関しては、以下の記事も参考にしてください。
関連記事:
ANAがシェアリングエコノミーで地方創生を目指す。TABICAとの連携による取り組みとは
ベジオベジコの本気の農業シェアとは
これまでの農業シェアリングエコノミーのかたちは、農地をシェアしたり、都市部に住んでいる農業初心者が農作業を体験したりといったケースがほとんどでした。その取り組みは決して悪いものではありませんが、農業を生業とする人たちが本気で活用できる仕組みではありませんでした。
そこで、本気の農業シェアを目指す取り組みが始まっています。
オーガニック野菜のデリバリーサービスを展開する「VEGERY」を運営するベジコベジオは、このデリバリーサービスを通じて宮崎県綾町の野菜をPRすることで、綾町の農業の発展を目指す取り組みを始めました。
例えばVEGERY内のカテゴリーに「宮崎県綾町」を設け、ユーザーが綾町の野菜を促したり、VEGERYの野菜デリバリー時に綾町の野菜やふるさと納税を案内するパンフレットを同梱したりといった取り組みを行います。
並びに、綾町の耕作放棄地をベジコベジオが設立した農業法人VEGERY FARM(ベジリーファーム)に提供して有効活用を目指したり、就農希望者を綾町に紹介したりと、野菜を売るというかたち以外での農業の発展を叶えようとしています。
新規就農希望者にとっての懸念は、初期費用がかかることや販売先の確保が難しいことです。VEGERYと綾町は、この点をクリアする施策も考えています。
具体的な事例としてはVEGERYを通じて綾町で就農をする人には、VEGERYの販売データが提供されるので、VEGERYで人気のある野菜を育ててうることで販売ルートと売上が確保でききます。
そのほかにも、VEGERY FARMは綾町の農業従事者から農作業のノウハウを提供してもらい、綾町にとっても農作業の手法を次世代に残していくことができるというメリットがあります。
野菜を買うことで、また実際に農作業に参加することで地方の農業を応援できるという、本気の農業シェアリングの取り組みに注目です。
ワクラクで1日単位の農業アルバイト
ワクラクを利用すれば、1日単位で農業アルバイトをすることができます。ワクラクは働きたい人と人手が足りない事業者を繋ぐマッチングプラットフォームです。日本の人手不足の解消を目指し、日本最大級のデイワークサービスを提供しており約5万人のワーカーが登録しています。
利用方法は簡単で、働きたい人はワクラクのアプリをダウンロードしワーカーとしてプロフィールを登録します。人手が必要な事業者は日時や人数、条件などを指定してワーカーを募集します。ワクラク内のワーカーが募集されている仕事に応募すると、事業者がプロフィールなどを確認し、アプリ上で契約が完了します。
このサービスを利用して人材を集めている事業者は、飲食店やホテルなど幅広い業種にわたり、農業でも利用されています。ワクラクは関東を中心に6都道府県でサービスを展開していますが、2019年3月には熊本の農業法人株式会社味咲でも導入され、九州で初となる熊本県でのサービスを開始しました。
農業では田植えや収穫などの「農繁期」に特に人手が必要となるため、人手が足りない時に手軽に人材を確保できる点で、ワクラクは農家にとって大きなメリットがあります。
一方で働き手のワーカーにとっても、履歴書や面接を受けずにアプリ一つで完結でき、1日単位で働けるため空き時間を活用することができます。また農家でのアルバイトのように、シフトを組むほどではないけれどやってみたい仕事があるときに気軽に試せるというメリットもあります。
株式会社味咲代表取締役社長の坂本氏はワクラク導入の経緯について、農繁期に対する人手不足の解消に加え、若い人たちに農業に興味を持ってもらいたいという思いがあったといいます。1日単位の農業アルバイトは、農業に興味をもつ人を増やすきっかけにもなるのです。
増加する農場や里山のシェア
これまで見てきたように、農業のシェアリングエコノミーの取り組みは、単に野菜を買ったり農業体験をしたりという気軽なものから、農地をシェアしたり、本格的に農業をすることに発展しつつあります。ここからは、農場や里山をシェアできるサービスを見ていきましょう。
まず、農地をシェアし、自分の好きな方法で地方の農業を応援し、美味しい野菜も食べられる仕組みの「FARMFES」。ユーザーは好きな契約農家を選び、そこに自分の好きな名前をつけられます。実際の農作業は現地の農業従事者が行い、定期的に行われるレポートで状況を確認できます。もちろん、時には現地に赴いて農作業をしたり、収穫された野菜を食べたりすることもできます。自分のライフスタイルに合わせて無理なく農作業をシェアできることが魅力です。
「シェア畑」は、農家の高齢化や担い手不足などで維持できず使われなくなった農地や遊休地を活用した、誰でも気軽に野菜作りが楽しめる畑のレンタルサービスです。首都圏と大阪、兵庫に88の農園を展開しており、利用者は近所の「シェア畑」を探して、入会金と月額利用料を支払うことで、小区画の“自分の畑”を借りて野菜作りを始めることができます。
「シェア畑」には種や苗・肥料に加え、農具や野菜を支える支柱、防虫ネットなど必要な道具や資材がすべて設置されており、利用者は手ぶらで畑に通うことができます。また「シェア畑」には「菜園アドバイザー」が勤務しておりマンツーマンで苗の植え方や育て方を指導してくれるほか、定期的に講習会が開催されるなどのバックアップがあるため、自分だけでは難しい野菜作りを手軽に楽しむことができます。
2019年3月23日には京都府では初となる「シェア畑」が嵯峨嵐山にオープンしました。また兵庫県尼崎の「シェアファーム武庫川」は2019年4月に開園1周年を迎え、区画の9割は契約済みで、野菜作りの基礎を学び『次は自力で』と巣立っていく利用者や利用者からアドバイザーに転身する人も出るなど、各地で「シェア畑」が展開され定着しています。
3.まとめ
農業分野でのシェアリングエコノミー導入においては、既存勢力と新規参入という対立がうまく回避できており、個人で対応しきれなかった部分をシェアリングエコノミーのサービスがうまくサポートする形が自然に成り立っています。
農業をはじめとする1次産業は衰退傾向にあると言われていますが、人の営みにとって欠かせない産業です。農業とシェアリングエコノミーの相性の良さが理解されれば、そのほかの1次産業にもシェアリングエコノミーが広まっていくのではないでしょうか。