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中国は現在、シェアリングエコノミー市場の規模がおよそ82兆円のシェアリングエコノミー大国です。新たなサービスが次々に生まれ、さまざまなものがシェアされています。しかし、その陰ではマナー問題や労使問題などのトラブルが顕在化し、新たな社会問題となりつつあります。

目次

  1. 急拡大する中国の市場取引額
  2.  トップスピードで浸透した理由とは
  3.  新たな中国のシェアサービス
  4.  急拡大がもたらす課題
  5.  まとめ

1.急拡大する中国の市場取引額

シェアリングエコノミーは、日本のみならず世界中の国々で急速に広がっています。近年経済的な発展が著しい中国もその例外ではありません。中国シェアリングエコノミー発展年度報告書によると、2017年の中国シェアリングエコノミー市場の取引額は4兆9205億元、つまり日本円で約82兆円です。一方矢野経済研究所によると、日本のシェアリングエコノミー市場は、2017年の市場規模予想が約636億円です。

このことから、中国のシェアリングエコノミー市場がいかに巨大であるかを知ることができます。規模のみならずサービスの多様性についても、経済情報誌Forbesが中国のシェアリングエコノミーの状況を新たなシェアリングサービスが、雨後のタケノコのように生まれ、最近ではその領域はバスケットボールや洗濯機まで広がっていると伝えるほどです。

 

2.トップスピードで浸透した理由とは

それでは、なぜ中国ではこれほどまでに急速にシェアリングエコノミーが普及したのでしょうか。人民日報の国際版環球時報の分析によると、主に3つの要因があるといいます。

1つ目は、ミレニアル世代がEC(電子商取引)に積極的で、高齢者は節約好きであることです。マーク・ザッカーバーグやエヴァン・シュピーゲルなど、2000年代に成人を迎えたミレニアル世代がITの分野で活躍していますが、中国でもデジタルネイティブのミレニアル世代はインターネット経由でサービスを利用することに抵抗がないようです。また中国人の節約好きは有名なようで、ドイツの新聞に中国人は節約によって年収の50%以上を貯蓄に回すと取り上げられたほどです。

2つ目は躊躇なく消費習慣を変えられることです。法政大学国際日本学研究所教授・王敏氏の著書『中国人の愛国心 日本人とは違う5つの思考回路』によると、中国人は特に改革開放以降、急速に海外の習慣や考え方を取り入れた経験があり、特に若者は新しい考え方を受け入れることに抵抗を感じる人は少ないそうです。これは消費習慣の変化にも影響を及ぼしているのではないでしょうか。

3つ目は、モバイル決済が普及していることです。中国ではアリペイテンセントが2大モバイル決済サービスとして普及しており、都市部ではキャッシュレス経済が当たり前となりつつあります。

中国のシェアリングエコノミーの状況については、以下の記事も参考にしてください。

関連記事:

「ライドシェア先進国となった中国」と日本の事情を徹底比較 訪日観光客に浸透する日本人が知らない越境白タクとは?

 

3.新たな中国のシェアサービス

それでは、現在中国で話題となっている新たなシェアサービスを紹介します。

・金融システム

https://www.lu.com/

個人間でお金を貸し合うことができるサービスで、中国のフィンテック(ICTを活用した金融サービス)市場における代表的な企業です。2017年には、企業価値が10億ドルを超えるユニコーン企業として世界ランキングの第9位にランクインしました。

・シェア傘

http://www.4ygx.com/

降水量の多い中国南部を中心に人気のサービスです。複数の企業が傘シェアリングに参入しています。サービスの概要は専用の傘スタンドにてスマートフォンのバーコードをスキャンしてロックを解除し、傘を借りられるというもの。アプリをダウンロードしたのちデポジットを支払い、利用期間中は使用料を払うシステムが一般的なようです。

・シェア充電器

http://www.jiediankeji.com/

モバイルバッテリーのシェアサービス街電は、飲食店などに設置されたボックスのバーコードをスキャンし、格納してあるモバイルバッテリーを利用できるサービスです。便利で需要がある一方、ハッキングや情報漏洩のリスクも懸念されています。

・シェア洗濯機

2017年に上海で誕生したばかりのサービスです。モバイル決済で料金を支払い、洗濯機や乾燥機を利用できるそうです。

カーテンやダウンジャケットなどの大きい洗濯物を洗えるメリットがあるとのことですが、価格が高めであることと、中国では街の洗濯屋が安くて数も多いことから、どこまで普及するかは未知数です。しかし、中国のなんでもシェアリングエコノミー化してしまう現状を表している興味深いサービスと言えるでしょう。

・シェアバスケットボール

北京語言大学の学生ネイト・リウ氏が始めたサービスで、バスケットボールの脇にある自動貸出機にあるバーコードを、スマートフォンでスキャンするだけでバスケットボールを借りられるのだそうです。

その他の中国の代表的なシェアサービスについては、以下の記事も参考にしてください。

関連記事:

爆発的に成長する中国のシェアリングエコノミー市場!その背景と日本との違い

中国初自転車シェアリングサービス「モバイク(mobike)」が日本上陸!中国の都市交通を変えたサイクルシェアの実態とは?

 

4.急拡大がもたらす課題

驚異的な勢いで拡大する中国のシェアリングエコノミー市場ですが、問題点も存在します。代表的な問題は、利用者のマナーや盗難の問題です。シェアサイクルシェア電動バイクのバッテリーの盗難が相次ぎ、上記で紹介した新サービスのシェア傘サービスの一つe傘は数週間で30万本を紛失しました。

また、労使問題のトラブルも起きています。独立法人労働政策研究・研修機構の報告によると、数年前から労働契約を結ばずに報酬を得て、利用者にサービスを提供する就業者が増加しており、こうした人たちが労働者としての権利の保護を裁判で争う事件が起きています。

さらに、シェアリングサービス中に運転者が交通事故を起こしたときの、会社側の賠償責任をめぐる裁判も争われており、大きな問題となっています。

中国のみならず、近隣の香港や台湾でもシェアサービス(特にライドシェアサービス)によるトラブルが報告されています。以下の記事を参考にしてください。

関連記事:

アジアで広がるライドシェア、Uber台湾・中国・香港のビジネスモデルを比較検証

 

5.まとめ

急速な経済発展とIT化・モバイル化の影響により、中国はシェアリングエコノミー大国になりました。しかしそれにともない、盗難やマナーの問題、情報流出などのリスクの問題、労使問題などの様々な負の側面も出てきています。ライドシェアサービスのマナー対策として、2016年に中国政府が法律を制定し、マナーの悪い顧客の情報共有ができるようになったことから、今後は中国政府が他のシェアサービスのトラブルに関しても何らかの措置を講じる可能性があります。中国政府がどこまでシェアサービスの問題に介入するか、注目されます。

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