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シェアリングエコノミーにおける代表的なサービスの1つである自転車のシェアは、環境に優しく交通事情による影響を受けにくいことから、日常だけでなく観光での活用も増えています。しかしそのサービス導入には高額な費用がかかるうえ、採算が取れるかどうかの判断が難しく、事業を開始しでもすぐに頓挫してしまうケースもあります。

そこで、サイクルシェアで7年以上の運用実績を持つコギコギが、低リスクでの導入実験サービスの提供を始めました。本記事では、そのサービスの概要と実証実験などの現状についてご紹介します。

目次

  1. 「COGICOGI LIGHT!」の提供を開始
    ・サービス概要について
    ・奈良県桜井市にて第一弾開始
  2. 各地で進むシェアサイクルの実証実験
    ・ユーザーアンケートからわかること
    ・公共交通機関との連携も可能に
    ・採算が合わず撤退する地域も
  3. まとめ

1. 「COGICOGI LIGHT!」の提供を開始

サービス概要について

シェアサイクルサービスを提供するコギコギ株式会社は2018年11月、シェアサイクルの実証実験支援サービス「COGICOGI LIGHT!」を新たに開始しました。これはシェアサイクルの実証実験を検討している自治体や企業が低予算・低リスクで手軽に実験できるサービスとなっており、第一弾として奈良県桜井市が実証実験を展開しました。

現在シェアサイクルは、交通政策の一環としてだけでなく、新たな観光「サイクル・ツーリズム」としても人気が高まっています。そこで地方の観光・インバウンドでもシェアサイクルを推進すべく、2018年6月に「自転車活用推進計画」が閣議決定され、全国で導入が検討されるようになりました。しかし、シェアサイクルの導入には課題もあります。導入の際には例え実証実験であっても数千万円という多額の費用が発生すること、かけた費用の割には利用が進まないケースがあること、当初の予測と導入後の状況のズレを修正するのが難しいことなどが挙げられます。実際、日本におけるシェアサイクルの採算が合わずに撤退した海外事業者も存在しています。

こうした背景を踏まえ、各地域のシェアサイクルにおけるニーズを把握し、導入に向けた課題の抽出や導入の可否判断などを支援するために提供されたのが「COGICOGI LIGHT!」です。このパッケージの特徴は次の3つです。

・最低50万円・1か月から実験の実施が可能

・依頼後、最短2週間で実験を開始できる

・検討地域におけるニーズなどの初期調査、運用に向けての仮説の構築から専用自転車の貸与・運用までをワンパッケージで提供

手軽に実証実験から運用までを行えることから、今後は地方でも持続可能なシェアサイクル事業が普及していくかもしれません。

シェアサイクル市場において、持続可能な事業モデル確立を目指すコギコギ株式会社。独自開発のスマートロックを活用したシステムで運用する「COGICOGI SMART!」は、IoT型のシェアサイクルサービスです。今後のインバウンド受け入れ環境の強化を狙ったH.I.S.ホテルホールディングス株式会社との業務提携については、関連記事もご参照ください。

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エイチ・アイ・エスとコギコギがシェアサイクルサービスをスタート!シェアサイクル市場は更なる競争激化へ

奈良県桜井市にて第一弾開始

桜井市は奈良県の中部にあり、大神神社・長谷寺・箸墓古墳をはじめ、国宝の仏像や寺社が点在する地域です。ここで2018年10月からの約1か月間、10台の電動アシスト自転車を使って「観光・インバウンド」におけるシェアサイクルの実証実験を、桜井市おもてなし仕組みづくり協議会(一般社団法人桜井市観光協会内)、 株式会社近畿日本ツーリスト関西一般社団法人サイクル・リビングラボが共同で実施しました。近鉄桜井駅前にサイクルポートを設置し、 利用状況や移動データの収集を行うというものです。

気軽に観光地巡りができる移動手段が少ない奈良県において、桜井市はシェアサイクルによる2次交通手段の充実と観光ネットワークづくりを目指しています。こうした桜井市のような地方自治体のニーズに応えつつ、小規模導入で利用状況を検証する実験が始まっています。

 

2.各地で進むシェアサイクルの実証実験

ユーザーアンケートからわかること

東京都環境局はシェアサイクル事業を行う区とともに、異なる区の間でも自転車が利用可能となる「広域相互利用」に取り組んでいます。同局が2016年12月に行ったサイクルシェアについてのWebアンケート調査では、利用に関して次のような結果が出ています。

1.主な利用目的

買い物・飲食・散策などの私事:63.5%

通勤:35.6%

観光・レジャー:33.5%

業務・ビジネス:20.5%

2.利用する理由

歩くよりも短時間で移動できるから:75.2%

公共交通より便利だから:60.8%

色々なところを巡るのに便利だから:45.5%

3.自転車シェアリングによる行動の変化

自転車の利用頻度が増えた:43.6%

目的地までの所要時間が短くなった:40.3%

立ち寄る店や目的地が増えるなど行動範囲が拡大した:27.5%

電車やバスの利用頻度が減った:20.3%

その他、サイクルシェア全体を通しての評価は満足・やや満足が86%、今後も利用したい人が約89%となっています。

(「自転車シェアリング広域相互利用 利用者アンケート」より)

現在は、千代田区・中央区・港区・江東区・新宿区・文京区・品川区・大田区・渋谷区の9区内、400か所以上のサイクルポートにおいて、どこでも自転車の貸出・返却ができるようになっています。電動アシスト自転車を手軽に利用でき、駐輪スペースの心配も要らないサイクルシェアに対する利用者の満足度と継続利用へのモチベーションは、かなり高いといえます。

また、生活に即した利用によるユーザーの行動範囲の拡大が、地元の店舗や施設などの利用者増加につながるものと考えられます。2次交通手段の充実を促進し、住人の日常生活に密着した経済圏を広げることで、サイクルシェアは地域経済の活性化に貢献しているといえるでしょう。

公共機関との連携も可能に

シェアサイクルサービスを提供している株式会社ドコモ・バイクシェアと、乗り換え案内サービス「駅すぱあと」を提供している株式会社ヴァル研究所は、2018年7月31日に東京都内において、公共交通の複合経路検索サービス「mixway(ミクスウェイ)」にドコモ・バイクシェア運営のシェアサイクルを連携させる実証実験を開始しました。mixwayの利用率などを計測し、ユーザーアンケートも行うことで、当該サービスの有用性とシェアサイクルの利用促進を計ります。

またこの実験を通して、ヴァル研究所は、さまざまな移動に関する課題の解決とユーザーの利便性向上を、ドコモ・バイクシェアは、移動手段のシェアリングや利用データの活用による新サービスの開発などで、環境問題の解決や地域・観光の活性化への貢献を目指しています。

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採算が合わず撤退する地域も

中国の大手サイクルシェア企業であるofoは、2018年3月以降、和歌山県和歌山市、福岡県北九州市、滋賀県大津市において順次サービスの提供を開始していました。ところが10月末、わずか半年ほどで同社は日本から撤退してしまいました。一時はシェア経済の旗手と称され世界進出も果たしましたが、母国での競争激化や放置車両問題でのコスト増などが響き、破産報道まで出る事態となっています。

また、ofoと並ぶ中国のシェアサイクル企業のMobikeも、北海道札幌市と福岡県福岡市で業務を展開していましたが、2017年11月には札幌から撤退しています。札幌からの撤退理由としては、積雪により採算をとるのが困難であったことが一因とされています。どちらの企業も事業の採算が合わず、母国での資金繰りの悪化が影響していると思われます。

一方、突然の撤退通告を受けた各市は、困惑しつつも残されたポートや自転車の処遇、事業継続の可能性などを模索しています。地方におけるシェアサイクルは公共交通機関の代替や、点在する観光スポットへの移動手段としての有用性が高いだけに、地域性を考慮したうえでの持続可能な事業モデルの確立が課題となるでしょう。

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3.まとめ

シェアサイクルは、都市部での渋滞の緩和や地方での公共交通機関を補完する手段としての活用だけでなく、インバウンドをはじめとする観光促進の手段としても政府のテコ入れが始まっています。

採算が取れずに撤退する企業がある一方で、持続可能な事業モデルの確立を目指して低リスクでの運用支援を行う企業も存在します。今後のシェアサイクル市場は官民の連携・導入が進むと思われるだけに、地域を問わず多様な分野の課題解決、活性化が期待されます。

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